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佐藤優介

J・ディラより早かった(?)ヨレたビート

──今回の『More Lost Tapes』の収録曲でいうと、“Pigeon From M82”はヨレたドラムのビートが印象的で。これはどうやってるんですか?

「これも数値を打ち込んで、ヨレた感じを再現してる。1小節が240だとしたら、次の小節は230にしたりとか、1拍の間にコンマ3秒入れてみたりとかね。そういうトライアンドエラーをひたすら飽きずにやってた」

──「時間がつまづくような感覚」と以前おっしゃってましたよね。

「そうそう。それは、道を歩いてて、石につまづいた時、あっこれは音楽に使えるな、と思ったのがきっかけなんだけど(笑)」

──すごい感覚ですね(笑)。そういうヨレたドラムとかも、今でいえばヒップホップ的というか、たとえばJ・ディラがそういうことを始めるよりも以前に、ひろかずさんがゲーム音楽の中で既にやっていたわけで。

「まぁそうだね(笑)。あと、生演奏でも初心者のリズムは自然に揺れるでしょ? そういうドラムは元々好きだった。でも、すごく上手いドラマーだって実はジャストじゃなくて、ちょっとヨレてたりする。モタってる感じがグルーヴを生むというか。そういうところを色々再現してた」

──また、アレンジの話でいうと、先日の「MOTHER」のライブ(6月22日に配信された〈MOTHERのおんがく。〉)では“Smiles and Tears”のトラックを完コピさせてもらったんですが、改めてひろかずさんのアレンジの緻密さに驚いたというか。ストリングスとホーンの掛け合いなんかもすごく綺麗で、ああいったアレンジも独学なんでしょうか。

「独学だね。『MOTHER』シリーズのころは30代だったけど、そういう年齢のときに宿るパワーというか勢いみたいな、ある種マジックみたいなものがあったのかもね。今やれと言われてもできない(笑)」

──「MOTHER2 ギーグの逆襲」(1994年)でいえば、フォーサイド(ゲーム内の都市)の曲もスーパーファミコンとは思えないくらいゴージャスなアレンジで。

「フォーサイドは都会的な、ニューヨークっていうイメージがあったから、それならサルサにしようと。ホーンが目立つアレンジでいこう、というのは決めていた。とにかく昔からいろんなレコードを聴いていて、ラテン系の音楽もすごく好きだったしね」

 

“めざせポケモンマスター”のコードや劇的な構成の秘密

──レコードで、耳で聴いて吸収していったんですね。そして時系列的には「MOTHER2」の後、1997年にアニメ「ポケモン」の放送がスタートするわけですが、その主題歌の作曲を担当することになったきっかけは?

「『ポケモン』のプロデューサーの石原(恒和)さんから連絡があって、やってみないかと。それまでの仕事を通して、自分の作る音楽に興味を持ってくれていたのかもしれませんね」

──いわゆる歌ものの提供仕事というか、職業的な作曲家への興味っていうのは、それまでもあったんでしょうか。

「んー、ほとんどなかったと思う。〈じゃあどうして?〉って問われたら〈偶然〉としか答えようがない(笑)。けれど、曲自体はずっと作ってたからね。歌詞を自分で書いたりはしなかったけど。高校生の頃はピアノとかギターで適当に手弾きしたものを自作曲として録音したり。NHK『みんなのうた』に勝手に応募したりとかもしたこともある、丁寧に返事の手紙が来て、募集はしておりません、と(笑)。1980年代にやっていたレゲエバンドでは曲も書いてた。1990年代にはBOOGIE MANのアルバムを手伝ったり曲を提供したり、ライブにもキーボードで参加したり」

──そうだったんですね。「みんなのうた」ではその後、ひろかずさんの曲が何曲も放送されることになりますが。

「『みんなのうた』は小学生のころから好きだった。めちゃくちゃ地味な曲なんですが、やなせたかしさんが作詞した“勇気のうた”(1968年)とか、トワ・エ・モワの“虹と雪のバラード”(1971年)とかね。それで楽譜を取り寄せたりもして」

──そして、ひろかずさんが最初に手掛けたアニメ「ポケモン」の主題歌“めざせポケモンマスター”は、結果的にダブルミリオンという大ヒットを記録します。ほとんど社会現象ですね。

「当時まだ任天堂の社員だったから、電車で会社に通ってるとき、その車内で子供たちが自分の曲を歌ってるのを見かけたときは鳥肌が立ったね。もちろん出来事としては大きかったわけだけど、自分の中でいろんな流れ、偶然が奇跡的に重なっていったという感じ。なので、割と自覚的、冷静に捉えてたかな」

──いや、それでも“めざポケ”はやっぱり、音楽的にすごい曲だと思います。まず構造が普通じゃないというか……テレビアニメの主題歌だから放送サイズは1分半なんですが、その中でイントロ、Aメロ、Bメロ、サビがあって、さらに最後にあのゴスペル的な、大きなエンディングがあって……この曲は他のアニソンとは全然違うぞ、と子供心に感じたのを覚えています。

「ありがとう。いや、当時の他のアニメの曲を全然知らなかったからね(笑)。だから自分の子供のころを振り返って、俺って何が好きだったかな、っていうのを思い出しながら、いろんな要素を詰め込んでいった。一貫して洋楽が好きだったわけだけれど、自分が好きな曲に必ずあった、Am→G→Fっていうコード進行、これは当時自分にとっての不滅のコード進行で。“めざポケ”をはじめ、ポケモン主題歌にはあのコードを色々忍ばせている。

あとは、ひとつの曲の中でドラマが生まれるようなものにしたいと思ったから、転調とかも盛り込んでいって。最後は教会のコール&レスポンスみたいな、ゴスペル的な要素も持ってきたいなぁ、と。これはアニメの主題がポケモンマスターを目指すことで、その気持ちを祝福し、後押しするような高揚感、そういう強さが欲しかったので」