©2023 CINÉ-@ - CINÉFRANCE STUDIOS - F COMME FILM - SND - FRANCE 2 CINÉMA - ARTÉMIS PRODUCTIONS

名曲“ボレロ”誕生の背景が鮮やかに描き出される伝記映画

 モーリス・ラヴェルの“ボレロ”はおそらく誰もが一度は耳にしたことのある楽曲だろう。映画でも「15分ごとに世界で誰かがラヴェルの“ボレロ”を演奏している」を言及されている。それほど人々に愛されている楽曲の誕生がテーマとなっているのがアンヌ・フォンテーヌ監督による伝記映画「ボレロ 永遠の旋律」だ。

 1927年、深刻なスランプに苦しんでいたラヴェルは、バレエダンサーのイダ・ルビンシュタインからバレエ音楽を依頼される。最初はアルベニスのピアノ曲集“イベリア”を管弦楽編曲していたのだが、版権の問題でそれが不可能になったところから、自ら“ボレロ”を生み出すことになる。しかし伝説的名曲が生まれるまでは、想像を絶する苦悩があった。思索し、これまでの人生を振り返り、叶わない愛や最愛の母との別れといった経験を重ね、ようやく旋律が生み出されていくのである。創作の過程が次々と楽想がつなげられるように描き出されていく手法は説明的でなく、音楽的に作り上げられており非常に美しい。ただし、次々と登場人物が出てくること、時系列が少し複雑に絡み合っていく部分もあるため、事前にラヴェルの生涯を知らないと理解しづらい部分もあるかもしれない。一度何か目を通しておくこと(特にラヴェルの後半生の部分)をおすすめする。しかし、逆に言えばラヴェルのことを知っている者にとっては周辺人物(といっても、イダや当時を代表するピアニストであるマルグリット・ロンなど時代を彩る重要人物ばかり)もいきいきと動き、ラヴェルと深く関り、それが“ボレロ”誕生へと繋がっていくので、嬉しいところである。しかもそれぞれが実際の人物と非常に似ている。〈本当にこんなやりとりをしていたのだろう〉と思ってしまうほどリアルだ。

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 似ている、といえばなんといってもラヴェルを演じたラファエル・ペルソナだ。本人よりもずっとハンサムなのだが、たたずまいは写真などで知るラヴェルそのものである。音楽を愛し、神経質で傷つきやすい性格だったラヴェルの心情を表情や挙動、そして目で繊細に演じている。そして“ボレロ”初演後、脳の病によって記憶も生気も失っていく様のリアルさには胸をえぐられるようなものがあった。また特筆すべきが劇中を彩るピアノ演奏。これはピアニストのアレクサンドル・タローが担当している。実際にラヴェルが使っていたピアノでの凛とした響きの演奏は、俳優陣の演技と相まって、よりラヴェルの生きていた世界への没入感が高めてくれるものだ。なお、演奏シーンの〈手〉はタローのものなので、ぜひピアノファンはそこにも注目してほしい。

 さらにタローはラヴェルの音楽に批判的な立場をとる音楽評論家ピエール・ラロ役でも出演。ラヴェルの音楽を愛するタローとしては「非常に辛かった」そうだが、映画では嫌味な評論家をひとりの俳優として見事に演じ切っている。ラロの言葉によってラヴェルは大きく傷ついてしまうのだが、見ているこちらも辛く悲しい気持ちになってしまう。しかし一方で“ボレロ”の初演後、ラロは自らの考えを大きく改めることになる。そのシーンでの豹変ぶり、それに対するラヴェルの反応が痛快なので、ぜひ劇場でご覧頂きたい。