みんなと共に私は生きている
その一方で、“Lost In Your Love”や“Mother”といった優河ならではのメロウネスが発揮された楽曲では、魔法バンドとのコンビネーションの良さも再確認させられる。ひとつひとつの音が優河の声を包み込むかのような優しいアンサンブルは、まさに彼女たちならではのものだ。また、今回は歌詞の面でも違いが見られる。かつての優河の歌には魂を削って言葉を紡いでいるような切実さがあったが、“Petillant”などでは暮らしの風景が軽やかな言葉で描かれる。
「去年の8月ぐらいにちょっと落ち込んでいた時期があったんですよ。その頃に友達の家でワインを呑むことがあったんですが、“Petillant”ではそのときの実体験を歌ってます。友達と大笑いしていたら、悩んでたことも忘れてしまって。心が楽になったし、本当に救われた。あの夜を称えたいと思って書きました」。
この曲が象徴しているように、本作には屈託なく笑う、普段通りの優河の姿が散りばめられている。
「今回の歌詞はパソコンで書いたんですよ。手書きだと綺麗な言葉を書きたくなっちゃうんですけど、パソコンだと友達に話しているみたいにカタカタと軽く書ける気がして。“Don’t Remember Me”なんて笑いながら書きました。そういうこと、あるよねーって(笑)」。
心境の変化の背景には、メンバーや家族、友人の存在が大きかったと話す。
「支えてくれる家族や友人、メンバーがいたことで、〈ここは安心だ〉という自分のセーフスペースを広げることができました。それが人間的な自信にも繋がったのだと思います。歌を歌ううえでも〈いちばん大事なことは声に絶対に乗るはずだ〉という確信があったし、それで今回は力を抜いて歌ってみようと思えたんです」。
優河は本作の資料に〈根暗でも踊れるダンスアルバム〉というコメントを寄せている。実際、これまでの作品では見えにくかった彼女のダンサブルな一面が表れているが、〈陽〉の反対に〈陰〉があるように、本作の根底には悲しみや痛みをなんとか乗り越えようという祈りにも似た感情が横たわっている。ひどく落ち込んでいた友人に向けて書かれた“泡になっても”は、まさにそんな一曲だ。
「いままでの作品がたったひとりで佇んでいる感じだとすれば、今回は周りに誰かがいて、そのなかで生きているという感覚のもとで作った感じがする。ここ数年の私は人と出会うなか、過ごすなかで何かが変わってきたと思うし、これからもそのことを楽しんでいけたらいいなと思っています」。
左から、千葉広樹が参加した蓮沼執太フィルの2023年作『symphil|シンフィル』(B.J.L. × AWDR/LR2)、谷口雄が参加したカーネーションの2023年作『Carousel Circle』(PANAM)