稀代のバンドが2004年に放った〈純粋なロックンロール・アルバム〉――20年が経ってこそ伝わる、世界が求めたサウンドの真価とは?
04年のU2を回顧するには、2000年の前作『All That You Can’t Leave Behind』から振り返ることが必要だ。90年代を費やした〈ポップ〉の実験を経て、オーセンティックな歌モノに回帰した同作は“Beautiful Day”を含む数枚のヒット・シングルを生んだだけでなく、翌2001年を通じて開催された〈Elevation Tour〉へと結実。同ツアーでの彼らのエモーショナルなライヴは、〈9.11〉テロ以降の暗い時代を生きていた人々を鼓舞し、慈愛で包み込んだ。結果、多くのメディアが彼らを〈バンド・オブ・ザ・イヤー〉として賞賛。この時期、世界は確かにU2を求めていた。
そんな状況のもと、2003年2月、バンドは〈純粋なロックンロール・アルバムを作る〉という意気込みを胸に、次のアルバム制作をスタートする。時代はストロークスの登場を発端に沸き上がったガレージ・ロック~ポスト・パンク・リヴァイヴァルのさなか。ハイヴスやヴァインズ、インターポール……新進バンドたちの躍進も刺激になっていたという。
だが、クリス・トーマスを招いた最初のセッションの出来にメンバーは納得できず、スティーヴ・リリーホワイトを召喚。これ以降に長く関わっていくジャックナイフ・リー、旧知のブライアン・イーノやダニエル・ラノワらも加わる形で、レコーディングは2004年の前半まで続く。最終的には11曲入りの作品としてアルバム『How To Dismantle An Atomic Bomb』は完成した。
オープナーに据えられたのは、ドラム・カウントに続き〈Uno, dos, tres, catorce!〉とボノがシャウト、即座にエッジのソリッドなギターが炸裂するバースト・チューン“Vertigo”。それに加えて“Miracle Drug”や“Love And Peace Or Else”“All Because Of You”といったラウドな楽曲は、本作が〈ロック・アルバム〉であることを印象付ける。その一方、ユーフォリックなアンセム“City Of Blinding Lights”、アンビエントなシンセが広がる“One Step Closer”などでは、これぞU2といったサウンドが美しく鳴らされている。
本作は、商業/批評的にも大きな成果を収め、世界34か国で1位を記録し、グラミーでは〈年間最優秀アルバム〉を含む8部門を獲得。iPodのCMに使用された“Vertigo”のインパクトも大きく、ここでU2に出会った(当時の)若いリスナーは多いはず。本作をリリースしたタイミングがU2にとって最後のキャリアハイだった。
そんな『How To Dismantle An Atomic Bomb』の20周年記念盤が、オリジナルの発表からちょうど20年後の2024年11月22日にリリースされる。通常盤のCDやLPに加え、きわめつけと言えるのが5枚のCDを収録したスーパー・デラックス盤。Disc 1には本編+ボーナス・トラックの“Fast Car”、『How To Re-Assemble An Atomic Bomb』と題されたDisc 2には当時のレコーディング・セッションから発見された未発表の5曲を含むレアな10曲、Disc 3にはトレント・レズナーやホット・チップらが手掛けたリミックス、さらにDisc 4〜5には、2007年にDVDで発表されたライヴ映像作品「Vertigo 2005: Live From Chicago」が初音源化される形で収録。おまけにアントン・コービンが撮影したハードカヴァーの写真集、バンドによるイラスト8枚までを同梱した豪華仕様の5枚組だ。なお、単独で限定ヴァイナル・リリースもされる『How To Re-Assemble An Atomic Bomb』からは現在、“Country Mile”と“Picture Of You (X+W)”の2曲が先行公開中。『Joshua Tree』期のアーシーさを彷彿とさせる前者、グランジーでグルーヴィーな後者と、いずれもこれまで陽の目を見なかったことが惜しいほどの楽曲だ。
近年の彼らは、2023年にセルフ・カヴァー作品『Songs Of Surrender』を発表しているものの、オリジナル・アルバムは7年間リリースされていない。活動全般を見ても遺産の掘り返しとアップデートが主となっていて、ロック・シーンの最前線を担う役目から降りている印象だ。だが、『How To Dismantle An Atomic Bomb』から20年を経て、世の中の状況は極めて暗い。世界がまたU2を求めていると思うのは筆者だけだろうか。
U2の近作。
左から2000年作の20周年記念盤『All That You Can’t Leave Behind (Deluxe)』、2023年作『Songs Of Surrender』、93年に録音されたライヴEP『Zoo TV: Live In Dublin 1993 EP』(すべてIsland)