それぞれ20周年、15周年を迎えたUSインディーの金字塔が新装リイシュー!

 00年代のUSインディーにおいてもっとも重要な存在とも評されたアニマル・コレクティヴの代表作、『Sung Tongs』(2004年)と『Merriweather Post Pavilion』(2009年)の2タイトルがライヴ録音や初CD化の音源を加えた新装版としてリイシューされる。これらはバンドのヒストリーにおいてだけでなく、21世紀のインディー・ミュージックにおいても金字塔と呼べる作品だ。それぞれ20周年、15周年となる2作の輝きは失われることなく、いまも新しい世代に再発見され続けている。

ANIMAL COLLECTIVE 『Sung Tongs』 Fat Cat/Domino/BEAT(2004)

ANIMAL COLLECTIVE 『Merriweather Post Pavilion』 Domino/BEAT(2009)

 ボルチティモア育ちの幼馴染同士で結成されたアニマル・コレクティヴは、活動初期の2000年代頭頃から風変わりなサイケ・ロックやノイズをDIYで制作していたが、次第にフォークの要素を増していくようになる。その結実がエイヴィ・テアとパンダ・ベアの2人で制作した『Sung Tongs』であり、当時ジョアンナ・ニューサムやココロージーといったアーティストらが代表とされた〈フリーク・フォーク〉に連なる一作として高く評価された。フォークと言ってもアニマル・コレクティヴのそれは歌や物語性を中心にした伝統的なスタイルではなく、強くエフェクトがかけられたコーラスとアンビエントやエレクトロニカの手法によって酩酊感を誘う音響効果を有するものだった。まるで寝ぼけているように不明瞭に発せられる歌声が、アコースティック楽器のざわめきと溶け合っていく。それは、21世紀初頭における柔らかくも強力なトリップだったのだ。

 当時のアニマル・コレクティヴはまた、佇まいとしてもユニークだった。〈9.11〉からイラク戦争へと向かっていく殺伐とした時代のアメリカにあって、自分たちの遊び場を作って無邪気に戯れるような在り方はチャイルディッシュだとも言われたが、だからこそ彼らのストレンジでイノセントな音楽は純粋な楽しさをめいっぱい表現していたのだ。

 その後は『Feels』(2005年)や『Strawberry Jam』(2007年)でバンド・アンサンブルを強化していくなかで、彼らは“Grass”“Fireworks”“Water Curses”といったキャッチーなシングル曲を次々と発表していった。その時期のアニマル・コレクティヴは、エクスペリメンタル・ポップにおける〈ポップ〉の部分もまた、大きな武器であることを証明するようだった。さらに、チェンバー・ポップ、ディスコ・パンク、シンセ・ポップなどなど多種多様で独創的なサウンドが繚乱だったブルックリン・シーンが盛り上がっていたこともあり、その象徴とされた彼らの人気はピークを迎えようとしていた。

©Taka Imamura

 そんななかで放たれた『Merriweather Post Pavilion』は、膨れ上がった期待を超えてくる傑作に仕上がった。ディーキンの不在もありエレクトロニックの要素を増したサウンドは、リヴァーブを多用する音響面での実験の成果をふんだんに活かしながらも、より構築的に統制され、“My Girls”“Summertime Clothes”“Brother Sport”といったとびきりポップで楽しく、多幸感に満ちたキラー・チューンを生み出した。一方で彼ららしい長音が分厚く重ねられる時間もたっぷり用意され、ひたすら快楽的なトリップが展開される。遠慮なくサイケデリックで、それでいて徹底的にポップ。アニマル・コレクティヴのサウンドの実験は一貫して遊戯性を保持し続けてきたが、その愉快さが広く受け入れられ、分かち合われたのがこのアルバムだったのだ。

 あくまでメインストリームとは離れた場所で独自の音楽的冒険を繰り広げてきたアニマル・コレクティヴは、決まった枠組みからはみ出すことの痛快さや気持ち良さを体現してきた。ますます窮屈な世の中になっているようにも感じられる現代にあって、朗らかに自由を体現する彼らの極彩色のサイケ・ポップを再訪することは、混じり気のない喜びをもたらしてくれるに違いない。

アニマル・コレクティヴの2023年作『Isn't It Now?』(Domino)