©Olaf Heine

2020年代最初のU2は偉大なる過去への旅から始まった――楽曲それ自体の本質を探求した『Songs Of Surrender』が改めて提示する、このバンドの奥深い魅力とは?

40年を超える音楽の旅路

〈音楽はタイムトラベルを可能にする。そこでこれらの曲を現代に持ち帰って、21世紀風に再構想したなら、どんな恩恵がもたらされるのか否か、それを知りたいと僕らは思いはじめたのだ〉。

U2 『Songs Of Surrender』 Island/ユニバーサル(2023)

 ついに完成を見たU2のニュー・アルバム『Songs Of Surrender』について、ジ・エッジ(ギター)はこのようなコメントを寄せている。文字にするとどことなく大仰にも思えるが、シンプルに言ってしまうなら、同作は過去の楽曲をリアレンジして再録したセルフ・カヴァー作品ということになる。ただ、40年超かけてU2が14枚のオリジナル・アルバム(やそれ以外のアウトプット)に残してきた楽曲はあまりにも膨大で、それらを聴き返して丹念に楽曲を紐解いていくには、〈タイムトラベル〉という形容に相応しいそれなりの時間が必要だったであろうことは想像に難くない。実際のところ、2021年6月にラジオ出演したアダム・クレイトンがこの再録プロジェクトについて初めて言及した時点では年内のリリースも視野に入っていたようだが、いざ旅立ってみた先の世界は予想以上に奥深いもので、思った以上に創造意欲を掻き立てる発見があったということだろう。

 結果的には、2022年11月に発行されたボノの回顧録「Surrender: 40 Songs, One Story」ともコンセプトが連携した格好となり、今回の『Songs Of Surrender』ではメンバー4名がそれぞれ10曲ずつを選んだ4枚組のCD(もしくはLP)がボックスセットの形でまとめられている。親切なことに、40曲中からさらに20曲を選りすぐったデラックス盤、16曲(日本盤は17曲)まで絞った通常盤も用意されているが、作品の意味や彼らの意図をはっきり捉えたい人なら4枚組を聴いてみる必要があるかもしれない。ともかく彼らにとってはこれが6年ぶりの新作であり、2020年代最初のU2の新録アルバムはこのような形で届くことになった。