©2023 Shampaine Pictures, LLC. All rights reserved.

まるでインド版ビリー・エリオット!?
見えない壁に立ち向かう、感動のダンス・ドキュメンタリー

 Netflixで公開されている「バレエ:未来への扉」(2020年、監督=スーニー・ターラープルワーラー)というインド映画をご存じだろうか。ムンバイの貧民街で育ったふたりの少年ニシュとアシフが、バレエ学校でイスラエル系アメリカ人のバレエ教師サウルに才能を見出され、周囲の偏見や不遇に負けず、夢をめざすという物語だ。ニシュとアシフはもともとブレイキンなどのダンスをストリートで踊っていたのだが、バレエを始めると見る間にその才能を開花させる。ふたりを演じているのもダンサーだから、見ごたえは十分だ。一方、エキセントリックなバレエ教師を演じるのは名優ジュリアン・サンズ。「眺めのいい部屋」ではクセのある二枚目だったのが、ここではハゲ散らかし、生徒たちにどなりまくっている(サンズは残念ながら23年に亡くなった)。

 ちょっとアンタ、さっきからなに別の映画の話ばかりしているの?と思われるかもしれないが、実はこの映画、実話を元にしている。そして、現実のニシュことマニーシュ・チャウハンに取材したドキュメンタリーがこの「コール・ミー・ダンサー」なのである。

 マニーシュもやはり貧民街で生まれ育っている。タクシー運転手をする父親に大学まで行かせてもらうものの、ダンスの魅力に目覚めてテレビのオーディション番組で入賞。父親には反対されるがダンスは捨てられず、バレエ学校で厳格な教師イェフダと出会う。かつて国際的な活躍をしていたイェフダはマニーシュの才能をひと目で見抜く。しかし、彼にはもうひとり目を惹かれる生徒がいた。それがアーミル、当時14歳の少年である(マニーシュは21歳)。ふたりは切磋琢磨しながらふつうなら9年かかるカリキュラムを3年で終えてしまう。天才肌のアーミルはロイヤル・バレエ学校への入学をすんなりと決めるが、すでに24歳になっているマニーシュはオーディションを受けてもなかなか行く先が決まらない。さらにケガ、コロナ禍によるロックダウンといった試練が次々とマニーシュの前に立ちはだかる……。

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 マニーシュ本人はハンサムで、演技も肉体も非常に美しい。それだけではなく、身体能力もきわめて高い。バク転やブレイキンを華麗に決めることは序の口で、縦のポールを両腕でつかんで身体を横向きに固定する場面などは、器械体操を見ているようだ。また彼はたいへんな目にあってクサることはあっても、決して天真爛漫さや素直さを失うことはない。とにかく好感度大なキャラクターなのだ。彼がそんなふうに育ったのは、インドというお国柄もあって家族の絆が強かったせいかもしれない。両親も最初こそ反対するもののマニーシュの夢をつぶしにくるわけではないし、おばあちゃんや妹が味方になって支えてくれる。家族だけでなく、マニーシュが出会う人に恵まれているのはまぎれもない事実だ。先生、ライバル、友人、それにパトロン(実際に映画はアーティストへの支援を呼びかけるメッセージで終わる)。物語にしてしまうと才能は勝手に育っていくように見えても、現実にはその裏に多くの人たちの力が動いていることがわかる。