“STAY TUNE”のヒットとスタジアムに立つ覚悟を込めたアンセム“MINT”
そんなSuchmosの真骨頂がもっとも端的に表れた楽曲と言えば、彼らのNo. 1ヒットでもある“STAY TUNE”だろう。2016年早々に届いた2枚目のEP『LOVE&VICE』のオープニングを飾る同曲は、スムースなドライブ感のなかに都会への皮肉を忍ばせたダンスチューン。リリースから半年後にはHonda〈VEZEL〉のCMソングにも起用され、その後、年を跨いでのロングヒットを記録することとなる。
そして、そこから半年も経たずに到着した3枚目のEP『MINT CONDITION』では、デビュー当初から語っていた「スタジアムでも成立するバンドになりたい」という言葉をミッドテンポのロックアンセム“MINT”で体現。オアシスを引き合いに出して語られた同曲のロックスター然とした佇まいは、2017年1月のセカンドアルバム『THE KIDS』でより顕著なものとなっていく。
歪んだギターがブルージーに鳴る“A.G.I.T.”に始まり、サイケデリックなグルーヴがアンニュイに渦巻く“SNOOZE”、トロピカルなパーカッションと重いギターリフがセクシーに重なる“SEAWEED”、ソフトなファンクポップからメタリックなギターが飛び出す“ARE WE ALONE”……と、『THE KIDS』では洗練と野蛮が滑らかに溶け合うアイデアがあちこちに。一方で、〈アシッドジャズバンド〉というレッテルを横目にあえてアシッドジャズと真面目に向き合ってみたという“PINKVIBES”をはじめ、黒いグルーヴとの蜜月も変わらず見せつける。彼らなりのソウルマナーをロック的な手法で表現した本作は、オリコンデイリー アルバムランキングで首位を、週間チャートでも2位を記録。Billboard JAPAN Top Albums Salesでも首位を獲得するなど、数字的にも大きな成功を収めた。
メジャーデビューと紅白出場、異色作『THE ANYMAL』、そして活動休止
破竹の勢いは止まらず、同年4月にはソニー・ミュージックレーベルズ内に自主レーベルとしてF.C.L.S.を発足したことを発表。6月にはその名を冠した2曲入りのシングル『FIRST CHOICE LAST STANCE』を送り出し、挑発的なジャズファンクと大箱での大合唱が似合いそうな黄昏色のスロウによって、バンドのメロウ&ハードな側面を改めて提示した。
F.C.L.S.からの第2弾作品となったのは、2018年のミニアルバム『THE ASHTRAY』。ふたたびHonda〈VEZEL〉のCMソングに起用された“808”と〈2018 NHK サッカーテーマ〉に提供した“VOLT-AGE”で幕開ける本作だが、前者では小気味よいグルーヴ上で辛辣な言葉が踊り、後者では燻る熱を転写したディストーションギターが7分超をかけて不敵にうねる。かと思えば肩の力の抜けたレイドバックチューンやビートルライクなロックアンセムがあったりと、“STAY TUNE”以降の成功体験によって訪れた環境の変化に流されず、しっかりと地に足を着けた一枚が届けられた。
そして、“VOLT-AGE”を披露した「NHK紅白歌合戦」への出演で2018年を締め括ると、2019年1月にはサードアルバム『THE ANYMAL』をリリース。8分超の“In The Zoo”をはじめ、“WATER” “Indigo Blues”“Hit Me, Thunder”あたりのサイケデリックジャム&プログレッシブソウルがとりわけ圧巻だが、YONCEの歌と歌詞先行の楽曲が多かったという本作の根底には、メランコリックなブルースフィーリングと硬派なロマンティシズムが流れている。サウンド的にも、ビートルズやレッド・ツェッペリン、ピンク・フロイドにドアーズといった偉大なるロッククラシック群を想起させつつ、シネマティックなサウンドスケープ――筆者の脳裏にふと浮かんだのは、ヴィム・ヴェンダース「パリ、テキサス」といった乾いたロードムービー群だった――を立ち上げる、堂々たるロックアルバムとなった。
駆け足で収めた成功と、その後に訪れた望まぬ喧噪。足元を確かめながら過ごす日々のなかに浮かぶ疑問や息苦しさ、スピーディーな消費社会に対する失望と愁い。それらを等しく〈歌〉として口にすることでバンドが新たなステップへ進んだことを示した『THE ANYMAL』が、現時点におけるSuchmosの最後の作品だ。同年9月には念願の横浜スタジアム公演〈“Suchmos THE LIVE” YOKOHAMA STADIUM〉を開催し、約3万人を動員。翌年3~4月には対バンツアー〈The Blow Your Mind TOUR 2020〉を予定していたものの新型コロナウイルス感染拡大を受けて中止となり、2021年2月に活動休止宣言をもってバンドは一旦歩みを止める。