メイヴィス・ステイプルズの来日公演が2025年3月11日(火)、12日(水)、13日(木)の3日間、ビルボードライブ東京で開催される。もはや説明不要なレジェンドの単独公演をより深く体験してもらうため、彼女を深く愛する音楽評論家の五十嵐正に、その偉大なキャリアを辿ってもらった。 *Mikiki編集部


 

来日ステージでも披露されるであろうステイプル・シンガーズの名曲

来年3月にゴスペルソウルのレジェンド、メイヴィス・ステイプルズが日本にやってくる。本人は久々の来日決定を喜ぶコメントで、日本に行くのは40年以上ぶりと興奮しているが、実のところ2004年のジャパン・ブルース&ソウル・カーニバルに出演しているので、約20年ぶりとなる。

今年4月にメイヴィスは豪華ゲストを迎えて85歳を祝うバースデイコンサートを行った。ゴスペルファミリーグループ、ステイプル・シンガーズの末っ子ながら、リードシンガーとして人前で歌い始めたのは11歳のときだから、70年を超えるキャリアの持ち主だが、まだまだ現役である。今もツアーを続け、来年発表予定のニューアルバムも制作中だ。その新作ではトム・ウェイツやフランク・オーシャン他の曲を取り上げ、本人も冗談っぽく〈奇妙〉と表現するなど、通常のゴスペルやソウルとは異なる構造の曲を歌う挑戦を楽しんでいるようだ。

メイヴィスはただ長く歌ってきただけの歌手ではない。彼女は時代の変化と共に生きてきたアーティストであり、より良い社会への変革をその音楽で後押ししてきた重要な人物である。米ミシシッピ州生まれで、元々はデルタブルース歌手/ギタリストだった父ローバック“ポップス”ステイプルズがシカゴで結成したステイプル・シンガーズは、彼の渋い歌声とギター、そしてメイヴィスの少女とは思えぬ深く響く歌声(メイヴィス本人は〈ヘヴィーな声〉と形容する)を看板に、1950年代のゴスペル音楽を代表する人気グループとなった。

そして彼らはキング牧師らと共に公民権運動に加わり、人種差別撤廃を訴え、平等な社会を求めて闘った。その活動は同時期のフォークブームともつながり、ゴスペルのメッセージを現実社会での自由と平等の実現に重ね合わせた〈ソウルフォーク〉とも呼べる作品で、白人の聴衆にもファンを増やしていった。1963年のニューポート・フォーク・フェスティバルで出会った若きボブ・ディランがメイヴィスに結婚を申し込んだという逸話もある。

1968年にステイプル・シンガーズはサザンソウルの名門レーベル、メンフィスのスタックスと契約。最初はスティーヴ・クロッパーのプロデュースとブッカー・T&ザ・MG’sの伴奏で、次いでアラバマ州にあるマッスル・ショールズのスタジオに出向き、伝説的なマッスル・ショールズ・リズム・セクション(通称ザ・スワンパーズ)と録音し、ファンキーなソウルにメッセージを乗せ大ヒット曲を連発する。

とりわけマッスル・ショールズでミュージシャンたちと刺激し合いながら作った“Respect Yourself”や“I’ll Take You There”などは独特のグルーヴを持ち、ソウル、ファンク、ロック、ゴスペルといったジャンルを超えて大きな影響力を持つ古典曲となった。グループはスタックスを離れると、今度はカーティス・メイフィールドのプロデュースで“Let’s Do It Again”などのヒットを放つ。