50年代に始動した革新的かつ伝説的なゴスペル/ソウル・グループにして、いまも活躍するメイヴィス・ステイプルズの大いなるルーツ……愛と尊敬を訴えたメッセージとソウルフルな昂揚感はいまこそ体感するべきものだ!

 ラン・ザ・ジュエルズの最新作『RTJ4』に収録された“Pulling The Pin”にて重く呻くような声を発していたメイヴィス・ステイプルズ。ブラック・ライヴズ・マター運動に触発され、民主主義を謳った同作に今年81歳になるメイヴィスが担ぎ出されたのは、彼女がゴスペルの高潔なメッセージと公民権運動をはじめとする社会的/時事的なトピックを織り込んで歌にしてきたステイプル・シンガーズのリード・ヴォーカリストだったからだろう。ソロとしてもヴォルト(スタックス)、カートム、ペイズリー・パークなどから作品を出してきたが、ここ10年近くはアンタイからプロテスト的なアルバムをリリース。ディープなコントラルト・ヴォイスで歌われるメッセージには説得力があり、重く深く心に響いてくる。

 キング牧師が主導した65年3月の〈セルマの行進〉を受けて“Freedom Highway”などのプロテスト・ソングを放ち、黒人コミュニティーに対して意識向上を促しながらクロスオーヴァーな音楽性で人気を集めたステイプル・シンガーズ。全国ヒットが出るのはスタックスに入社して数年後の71年からだが、50~60年代にも地元シカゴのヴィー・ジェイをはじめ、リヴァーサイド、エピックなどの諸レーベルで前向きなメッセージを歌にしてきた彼らは、ボブ・ディラン“Blowin' In The Wind”やピート・シーガー“We Shall Overcome”などのカヴァーも含めた一連の〈フォーク・ゴスペル〉な作品で、白人フォーク界からも崇拝されるほど大きな影響を及ぼしていた。

 音楽面での鍵を握ったのは、メイヴィスの父でギタリストのローバック“ポップス”ステイプルズ。生まれ故郷ミシシッピの農園でギターを始め、結婚後に移住したシカゴで精肉工場に勤めていた彼は、仲間と組んでいたバンドが遅刻者ばかりでうんざりし、49年に家族でグループを結成している。メンバーはポップスのほか、長男パーヴィス、長女クレオサ、三女メイヴィスの4人(次女イヴォンヌも不定期で参加)。地元の教会で歌いはじめるが、当時男性クァルテットが主流だったゴスペル界では、ギター弾きの男性と低い声の女性ヴォーカリストをフロントに据えたフォーク風のゴスペル・グループは異色だったという。デルタ・ブルースやロカビリーのギター奏法に影響を受けたポップスが、黒人霊歌や賛美歌を親しみやすい曲にアレンジして、ヒルビリーに通じるハーモニーを乗せた音楽スタイルは当時かなり斬新に映ったようだ。

 メインで歌うのは主にポップスとメイヴィス。気持ちを込める曲はディープな声のメイヴィス、力唱しなくてもよい曲は素朴な歌い口のポップスがリードを取ったという。スタックス時代の彼らを手掛けたホーマー・バンクスによれば〈ポップスの後ろでメイヴィスが軽くアドリブを入れるのがステイプルズの基本〉だそうだが、53年に自主レーベルのロイヤルから初シングルを出した頃には、10代半ばだったメイヴィスが豊かで艶のある歌声ですでに存在感を際立たせている。

 そんなメイヴィスを父はアレサ・フランクリン的な存在にしようとしていた。後に世俗音楽界でも活躍するメイヴィスはゴスペルに止まらないポップな感覚も持ち合わせ、実際にメイヴィスとアレサの出自や歩みには共通点が多い。コロムビアでジャズ~ポピュラー路線の曲を歌っていたアレサがアトランティックでソウルを歌いはじめると、ステイプル・シンガーズもスタックス入りしてフォーク・ゴスペルからソウルにシフト。メイヴィスとアレサ、同様に情感溢れる歌声のグラディス・ナイト(&ザ・ピップス)は揃ってカーティス・メイフィールドの制作でブラック・シネマのサントラも作った。アレサの教会実況盤『One Lord, One Faith, One Baptism』(87年)にメイヴィスが参加したのも、ふたりの魅力や実力が伯仲していたことを物語るものだろう。ちなみに、アレサの“Chain Of Fools”冒頭のギターや、グラディス・ナイト&ザ・ピップス“Friendship Train”でのコーラスはステイプル・シンガーズを意識したものだと言われている。

 68年からのスタックス時代が商業的にもっとも成功したのは、69年にグループを退いてプロダクションの運営に専念しはじめたパーヴィス(代わりに次女イヴォンヌが正式加入)、そしてスタックス副社長のアル・ベルが、世俗音楽の環境に彼らを導いたことが大きい。キング牧師暗殺後の〈貧者の行進〉をテーマに書かれた“Long Walk To D.C.”など、スタックス初期の曲ではスティーヴ・クロッパーらMG'sの面々が制作/演奏していたが、70年代に入る頃にはアル・ベル制作のもと、アレサのアトランティック初期セッションにも参加したマッスル・ショールズの腕利きたち(通称スワンパーズ)を従えてファンキーなメッセージ・ソウルを送り出していく。そこで生まれたのが“Respect Yourself”(71年)と“I'll Take You There”(72年)の2大ヒットだ。特に全米No.1ヒットとなったレゲエ/スカ的なグルーヴの“I'll Take You There”は冒頭部からハリーJ・オールスターズの“The Liquidator”にそっくりで、クセになるベース・リフを編み出したデヴィッド・フッドによればセッションで偶然生まれたというが、ジャマイカ旅行に行ったアル・ベルが“The Liquidator”を意識して書いたとも言われており、単純な作りながら当時としては流行をいち早く採り入れた革新的な曲となった。

 こうしてクロスオーヴァーな音楽性で商業的な成功を収めたことに対し、ゴスペル界からはセルアウトだとの声も上がった。が、アレサを意識するメイヴィス(ら)にとってはむしろそう評価されるほうが好都合だったのかもしれない。スタックス倒産後にカートムから出したサントラ『Let's Do It Again』(75年)の表題曲が大ヒットし、続いてワーナーに入社した彼らはステイプルズと改名までして世俗の音楽に染まっていく。

 教会叩き上げの彼らはライヴ・パフォーマンスにも定評があった。73年に映画公開されたフェス〈Wattstax〉での熱演、また78年に公開されたザ・バンドのドキュメンタリー映画「ラスト・ワルツ」で以前カヴァーしていた“The Weight”を歌うシーンは語り草となっている。すでにグループとしては活動休止状態となっていた99年にロックンロールの殿堂入りを果たしたのも、フォーク~ロック界との交流や与えた影響の大きさを考えれば当然のことだろう。父や姉妹を天国に見送り、精力的にソロ活動する近年のメイヴィスがジェフ・トゥイーディーやベン・ハーパーと組んでいるのも何ら不思議ではない。ステイプル・シンガーズのスピリットは、いまもメイヴィスの作品に受け継がれているのだ。 *林 剛

ステイプル・シンガーズの7枚組ボックス『Come Go With Me: The Stax Collection』(Concord)

 

生前のデモを元にしたポップス・ステイプルズの2015年作『Don't Lose This』(Anti-)

 

アレサ・フランクリンの87年作『One Lord, One Faith, One Baptism』(Arista)

 

左から、73年公開作のDVD「ワッツタックス/スタックス・コンサート」(ワーナー・ホームビデオ)、ザ・バンドの78年作『The Last Waltz』(Warner Bros./Rhino)

 

メイヴィスはいまもバリバリ現役だ!

 10歳で家族と活動を開始したメイヴィスは、グループの看板シンガーとして人気を集める一方、並行してソロ活動を展開し、本隊がレーベルを移るたびにソロでもアルバムを出してきた。80年代後半にグループが前線を退いた際もプリンスに導かれ、ペイズリー・パークでも名作を発表。90年代に入って以降はビービー&シーシー・ワイナンズの“I'll Take You There”に客演し、ゴスペルやジャズ、ブルース方面へも活躍の場を拡大。ソウル・レジェンド再評価が流行った00年代には企画盤『I Believe To My Soul』(05年)でズバ抜けた存在感を発揮し、アンタイと契約してライ・クーダー制作のコンシャスな『We'll Never Turn Back』(07年)を発表してからの堅調ぶりはご存知の通りだ。以降もジェフ・トゥイーディー(ウィルコ)やベン・ハーパーと組んでコンスタントにアルバムを発表。2016年夏には旧友ボブ・ディラン(かつて彼女にプロポーズした逸話も有名だろう)とのツアーも敢行し、ギャラクティックやゴリラズ、ベンジャミン・ブッカー、ホージアー、シェリル・クロウ、ラン・ザ・ジュエルズら多彩な後進とコラボするなど、過去のグループのイメージも丸ごと引き受けて活躍中なのである。 *出嶌孝次

 

ESSENTIALS
ステイプル・シンガーズの名作たち

THE STAPLE SINGERS 『The First Family Of Gospel 1953-1961』 Jasmine(2019)

初期の編集盤は体裁を変えてあちこちから出ているのでどれでもいいが、こちらはヴィー・ジェイ時代の音源をメインにしたお手軽な編集盤。ミシシッピ・ブルース・スタイルの簡素な演奏に朗々と声を重ね、まだメイヴィスを前に出していないヴォーカル・アレンジの違いもあって、当時のハーモニーが味わい深く楽しめる。シャープ時代の“This May Be My Last Time”(54年)を筆頭に、まだ未整理な部分もあるプリミティヴな振る舞いが熱い。 *出嶌

 

THE STAPLE SINGERS 『Will The Circle Be Unbroken?』 Vee-Jay(1960)

50年代半ば~60年代初頭に地元シカゴのヴィー・ジェイに残した主要シングルから成るアルバム。古い讃美歌をアレンジした表題曲や“Don't Knock”などのロカビリー調、ミシシッピ州クラークスデイルでのライヴ実況音源“Too Close”のようなデルタ・ブルース風など、イントロからポップスのギターが響く素朴な曲に彼らのルーツが見て取れる。メイヴィスの歌唱も堂々としている。 *林

 

THE STAPLE SINGERS 『Freedom Highway: Complete』 Epic/Legacy(1965)

65年4月にシカゴの教会で行ったライヴの実況盤を、MCなどを加えた完全版で復刻したもの。エピックでのフォーク・ゴスペル集大成的な内容で、〈セルマの行進〉を受けた表題曲やジョーン・バエズも歌った公民権運動のアンセム“We Shall Overcome”といったプロテスト・ソングが鮮烈だ。メイヴィスが力を込めて歌うゴスペル古典“Precious Lord, Take My Hand”にも引き込まれる。 *林

 

THE STAPLE SINGERS 『For What It's Worth: The Complete Epic Recordings 1964-1968』 Real Gone(2018)

こちらは上掲のライヴ盤(の通常エディション)を含むエピック時代のアルバム6タイトルを3CDにパッケージしたお手軽なボックスセット。社会状勢を反映して同時代のプロテスト・フォークやソウル勢の音楽性ともリンクし、トラディショナルなゴスペルのみならずボブ・ディランやインプレッションズのカヴァーなどが楽しめるのもこの時期ならでは。メイヴィスのソロも収録されている。 *出嶌

 

THE STAPLE SINGERS 『The Staple Swingers』 Stax(1971)

父+3姉妹の新体制で初めて臨んだスタックスでの通算3枚目。前2作でのスティーヴ・クロッパーに代わって副社長のアル・ベルがダイレクトに采配し、マッスル・ショールズで録音。フォーク色が後退してソウルを押し出すことで全体のノリはより快活になった。PIZZICATO FIVEのネタとしても知られる“Heavy Makes You Happy(Sha-Na-Boom Boom)”はこちらに収録。 *出嶌

 

THE STAPLE SINGERS 『Be Altitude: Respect Yourself』 Stax(1972)

スタックスでの2大ヒットを含むアル・ベル制作の名盤。ルーサー・イングラムらの作で自尊心を煽る“Respect Yourself”とレゲエ調の“I'll Take You There”が際立つが、マッスル・ショールズのリズム隊とメンフィスのホーン隊が援護した土臭くもモダンなソウルはどれも快曲で、メイヴィスの包容力のある歌声が誇り高く響き渡る。バイデン候補が選挙ソングに用いた“We The People”も収録。 *林

 

THE STAPLE SINGERS 『Be What You Are』 Stax(1973)

本作もマッスル・ショールズ勢との録音。作家陣にはバンクス&ハンプトンらスタックスの精鋭が名を連ね、前作ヒットの続編的な“If You're Ready(Come Go With Me)”やテリー・マニングのマリンバがカリビアンな雰囲気を引き立てる“Touch A Hand,Make A Friend”など、ポジティヴな躍動感が心地良い。ビル・ウィザース“Grandma's Hands”のカントリー風カヴァーも収録。 *林

 

THE STAPLE SINGERS 『City In The Sky』 Stax(1974)

『Be Altitude: Respect Yourself』以降の制作体制とムードを受け継いだアルバムで、ゴスペルの高潔さと時事的なメッセージを、より世俗に寄った形で表現している。クラヴィネットが活躍する“City In The Sky”や疾走感のあるアップ“Washington, We're Watching You”などファンク/ダンス要素が強まるもカントリー風味のバラードは健在だ。メイヴィスの歌は抑え気味。 *林

 

THE STAPLE SINGERS 『Let's Do It Again』 Curtom/Omnivore(1975)

「一発大逆転」の邦題で知られるブラック・シネマのサントラ。同郷のカーティス・メイフィールドによる制作で、大ヒットした表題曲やファンキー・ソウル“New Orleans”など、メイヴィスの包容力のあるハスキー・ヴォイスはカートム・サウンドと好相性を見せ、セクシーな雰囲気さえ漂う。ギル・アスキーとリッチ・テューホのアレンジは実に精緻で、スコア然としたインストも快演。 *林

 

THE STAPLES 『Pass It On』 Warner Bros./Omnivore(1976)

新たにワーナーと契約。スタックス時代のイメージ払拭を狙ったのか、ステイプルズと改名して都会的に新生を図った一作だ。そのままカーティス・メイフィールドが全面プロデュースにあたり、この時期の彼らしい温かみに溢れたエレガントなナンバーが並んでいる。ディスコ気分の流麗なアップも、モロに“Let's Do It Again”の二番煎じな“Love Me, Love Me, Love Me”も絶品。 *出嶌

 

THE STAPLES 『Family Tree』 Warner Bros./Omnivore(1976)

シャイ・ライツを離れてワーナーと契約したユージン・レコードが制作。カートム盤に参加した演奏陣と一部ダブるが、フェニックス・ホーンズらを迎えてトム・トム84がアレンジした楽曲は、オリビア・ニュートン・ジョン版で有名なバラードも含め、モダンで優雅な70sシカゴ・ソウル然としている。アレサの妹キャロリンがペンを交えた“Let's Go To The Disco”ではディスコに接近。 *林

 

THE STAPLES 『Unlock Your Mind』 Warner Bros./Omnivore(1978)

前2作から一転してメンフィス味とゴスペル色に揺り戻し、ジェリー・ウェクスラーとバリー・ベケットにプロデュースを委ねたステイプルズ名義の3作目。パワフルなリズム&ブルースの“Handwriting On The Wall”やディープな“Don't Burn Me”もあれば、軽やかなステッパーズの表題曲もあって、硬軟のスタイルを折衷した感じでもある。この後メイヴィスのソロ作を最後にワーナーを離脱。 *出嶌

 

THE STAPLE SINGERS,MAVIS STAPLES 『This Time Around』 Stax/Ace(1981)

ファンタジーが買収したスタックスの音源を未発表曲も含めて編纂。素材はアル・ベル制作でマッスル・ショールズ勢と録音した70~72年頃の楽曲だが、名義が示すようにほぼメイヴィスのソロと言ってよく、オーヴァーダブやリミックスが施されて音も整理されている。フィリップ・ミッチェル作“Trippin' On Your Love” はモダン・ソウルやハウスの文脈で人気を集めたミディアムだ。 *林

 

THE STAPLE SINGERS 『The Staple Singers』 Private I/SoulMusic(1985)

名義を元に戻すも商業的に苦戦した80年代、20世紀フォックスからプライヴェート・アイに移籍しての2枚目。前作『Turning Point』同様に80年代ブラコンで活躍したギャリー・ゴーツマン&マイク・ピッキリロをプロデューサーに据え、トーキング・ヘッズのカヴァー“Life During Wartime”も交えてコンテンポラリー路線を模索するが、これがグループ名義でのラスト・アルバムとなった。 *出嶌

 

リイシューが咲いてどんな気がする?

CARLA THOMAS 『Let Me Be Good To You: The Atlantic & Stax Recordings(1960-1968)』 SoulMusic(2020)

 温かい部屋で浸るのに打ってつけのリイシューは続いています。まずはスタックス繋がりということで……カーラ・トーマスの4枚組セット『Let Me Be Good To You: The Atlantic & Stax Recordings(1960-1968)』(SoulMusic)をご紹介。副題の通りスタックスがアトランティック傘下にあった時代のアルバム5作やシングル音源などが網羅されていて、メンフィス・ソウル草創期の大ヒット“Gee Whiz(Look At His Eyes)”からオーティス・レディングとのデュエットまで、ステイプルズらを獲得してレーベルが新生する直前までのエレガントな楽曲群が堪能できます。

GLADYS KNIGHT & THE PIPS 『Essential 1961-1965』 Sunset Blvd/BSMF(2020)

 お次は、本文にも名前の出てくるグラディス・ナイト&ザ・ピップスのキャリア初期曲をコンパイルした『Essential 1961-1965』(Sunset Blvd/BSMF)を推薦します。モータウン~ブッダで頂点に立つ前のフューリーやマックスに吹き込んだ楽曲群は、10代とは思えぬグラディスの押し引き自在な歌いっぷりがとにかく最高。彼女の産休中にピップスだけで出した“Linda”なども聴きモノです。

VARIOUS ARTISTS 『A Cellarful Of Motown Vol.5』 Caroline(2020)

 で、そんな彼女たちの楽曲も含むモータウンの蔵出しコンピ第5弾『A Cellarful Of Motown Vol.5』(Caroline)を最後に紹介。例の映画で興味を持った人に刺さるかはともかく、謎多きアニタ・ノールの“Don't Be Too Long”など今回も〈もったいない名演〉揃いですよ。 *出嶌孝次