アルバムの由来と歴史
そもそも〈アルバム〉とは、SP盤が主流の時代に複数の盤を収納する本のような入れ物、写真アルバムのようなケースが語源になっている。有名な逸話だが、2022年に『乗合馬車(Omnibus)』としてリイシューされた大滝詠一の1stアルバム『大瀧詠一』はその由来を元々想定しており、シングルを6枚出してアルバムにする構想があったため、短い曲が多くなったのだそうだ。
アルバムは1948年にコロムビア・レコードが33 1/3回転のLP盤を制作したことで現在の形に近づき、〈シングルの寄せ集め〉とは異なる統一的なコンセプトを持つ作品が次第に制作されはじめた。ビートルズの1967年作『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』などがアルバム全体で一つの物語やテーマを描くコンセプトアルバムの嚆矢になったことは、広く知られているとおり。
そのビートルズなどシングルとアルバムを別個に考え、既発シングルをアルバムに収録しない例もある(特にイギリスではこの傾向が強いと思われる)。この頃の〈アルバム芸術〉に対する価値観が現在も受け継がれており、上述のBUMP OF CHICKEN『Iris』を巡る議論に直結していると言えるだろう。
J-POPのタイアップ文化とアルバム
現代のJ-POPとアルバムとの関係を考える上で外せないのが、タイアップソングの文化である。アニメ、映画、ドラマ、CM等で使用するための楽曲制作を企業などがアーティストに依頼すること、そしてその相乗効果は、日本のポップミュージックにおける重要な要素だ。日本では、古くは1950年代からCMソングや映画の主題歌・挿入曲がヒットに繋がってきたそうだが、近年は偶然のバイラルヒットのような新たな回路が開かれたとはいえ、タイアップとヒットの相関関係はますます強まりつつある。
アルバムの収録曲に〈○○の主題歌〉〈○○のCMソング〉と、ずらっと列記されていることは少なくない。タイアップの依頼やその制作過程がアーティストのクリエイティビティを刺激している事実は、ミュージシャンに取材するとたびたび語られることである。あるいは、タイアップであれば制作費も確保できる側面もあるだろう。人気アーティストには依頼がそのぶん集中するし、それに応えられる技術や創造性が今の音楽家に求められてもいる。そういった事実や宣伝戦略的な意図、あるいは外的な要請から、耳馴染んだタイアップ曲がアルバムにたくさん並んでいる、ということがしばしば起こる。
椎名林檎や米津玄師のアルバムへの向き合い方
冒頭の話に戻って、具体的な作品とアーティストについて考えてみよう。『Iris』などBUMP OF CHICKENのアルバムは、一曲ずつ作られ積み重ねられた曲がまとまってアルバムになっていることが藤原基央のインタビューで明かされている。一曲にその都度向き合ってきたドキュメントがアルバムになる、というのがBUMP OF CHICKENのスタイルなので、『Iris』の構成は自然だ。これは、大滝詠一がかつて構想した〈シングルを集めたものとしてのアルバム〉という原義に立ち返っている、と捉えることもできる。
一方で、2024年最大の話題作の一つ『放生会』をサプライズリリースした椎名林檎は、アルバムのシンメトリーな構成などに強いこだわりを持つ真正のアルバムアーティストだろう。
2019年作『三毒史』で男性アーティストとのデュエットを試みた椎名は、それと対になるように女性歌手=7人の歌姫のコラボを『放生会』で展開した。対照的な作品を連続で制作する点にも、アルバムに対する執拗なほどのこだわりが感じられる。『放生会』は、リリースの2日前にコラボの7曲が先行配信され、“私は猫の目”など既発曲もアルバムバージョンで含まれているとはいえ、その密度とスピード感、結果として届けられたアルバムはファンを驚かせ、魅了するトピックに満ちていた。
2024年の話題作といえば、米津玄師の6作目『LOST CORNER』はその筆頭だ。
同作には、既発曲が11曲も含まれている。その内10曲がタイアップソングで、先行配信された冒頭曲“RED OUT”もSpotifyのCMソングになり、収録曲“がらくた”は映画「ラストマイル」の主題歌として書き下ろされたものだった。
『LOST CORNER』は、多数の既発曲と拮抗する9曲のアルバム曲を含む20曲入り、70分超えの大作である。これについて米津は、「アルバムの中に未発表曲が2曲とか3曲しかないと、けっこう寂しい」「自分が音楽に対して完全なるリスナーだった頃は、そういうアルバム曲が欲しかった」という思いから、「とにかく曲を作る」という姿勢で挑んだと語っている。アルバムアーティストとしての意地や矜持を感じるエピソードだ。
あいみょんの5thアルバム『猫にジェラシー』の収録曲は、既発曲が5曲、新曲が8曲という従来のアルバムに近いバランスだ。
「シングルを2、3枚出して、1曲配信したら、そろそろアルバムを……という流れになっている」とインタビューで語っているとおり、制作の体制や姿勢も従来型のナチュラルなもの。おもしろいのは、タイアップ曲は書き下ろしだが、アルバム曲はストックから選ぶという点。日常的に作曲して多数のストックを抱えているあいみょんは、それこそ多作家で未発表曲が大量にあったプリンスに似ているかもしれない?



