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火野正平、唐十郎、アラン・ドロン――名優が残した忘れがたい歌

続いては、シンガーとしての顔もすっかり定着していた火野正平について。生涯にシングル13枚、アルバム7枚を残している彼は2023年にひさびさのシングル“あかんたれ”をリリース。新曲を引っさげてライブツアーを開催して話題を呼んだことも記憶に新しい。得意な曲調は、ムーディーなブルース歌謡やフォークタッチのバラード系。音楽活動も活発だった原田芳雄や松田優作らと比べると、歌唱の端々にシャイで繊細な感性が覗くあたりが彼の個性で、歌声から漂う独特の甘さも魅力的であった。年齢を重ねてからのしわがれ気味な味わい深い歌声も沁みるが、若い頃のちょっとワルな雰囲気の歌にも触れてほしいと思う。

また今年は、状況劇場を主宰し、アングラ劇団花盛りの時代に演劇界のプリンスと呼ばれた唐十郎もこの世を去った。まず思い浮かぶ1曲は、“銭ゲバ大行進”(1970年)である。自身が主演を務めた映画「銭ゲバ」の主題歌で、コミックソングも得意とした〈ハマクラ〉こと浜口庫之助が作曲を担当。いわゆるカルト歌謡の枠に入るレアなナンバーだが、氏のニヒリスティックな歌いっぷりがとにかく毒々しくて、聴くたび身体中にイガイガ感が走ってしょうがない(挿入歌“銭ズラよ!”も同レベルの内容となっているので要チェック)。

VARIOUS ARTISTS 『歌謡曲番外地 東宝レコード 映画・TV編~銭ゲバ大行進』 東宝(1970)

途轍もない熱を放散していた状況劇場の舞台を幻視させてくれる作品として、近年CD化が実現した伝説のライブアルバム『四角いジャングルで唄う』(1973年)も紹介しておきたい。1973年2月に後楽園ホールで行なわれたリサイタルの実況録音盤で、四谷シモンや李礼仙(李麗仙)といった人気者たちのエネルギッシュなパフォーマンスも堪能できる貴重な一作だ(演奏は小室等が指揮するザ・サウンド・ガーリックが担当)。要注意歌謡曲指定を受けて闇に葬られてしまった怪曲“愛の床屋”が聴けるのも嬉しい。

唐十郎 『四角いジャングルで唄う』 ベルウッド/キング(1973)

海外に目を向けると、世紀の二枚目、アラン・ドロンが88歳で死去した。彼が残したヒット曲というとダリダと組んだ“あまい囁き”(1973年)があまりに有名だが、本稿では“愛しのレティシア”(1967年)をぜひとも推したい。自身が主演を務めた青春アドベンチャー映画の大傑作「冒険者たち」のテーマメロディー(音楽:フランソワ・ド・ルーベ)に歌詞を付けたもので、ここではドロンが珍しく歌唱を担当しているのだ。まぁ歌唱というよりは呟き声と呼ぶのが近い印象なのだが、それが何とも言えないウブな表情を湛えていて、そよ風を思わせるメロディーとイイ馴染み具合を見せている。静かな青い海をボ~ッと眺めているときにふとよぎったりする忘れがたい一品なのである。

 

「ドラえもん」「ちびまる子ちゃん」など国民的アニメの立役者たちの愛おしい声

さらに、テレビ放送ならびにジャパニーズアニメの黎明期から活躍してきた大山のぶ代も今年亡くなった。彼女のお顔を思い出そうとするとふと頭をよぎるのはあまりに有名な“ぼくドラえもん“(1979年)だったりするが、“ハッスルパンチの歌”(1965年)や“ハリスの旋風”(1966年)など、天性のおもしろ声が炸裂した懐かしいアニソンもやっぱり愛おしい。

「無敵超人ザンボット3」の神勝平役をはじめとし、彼女が〈男の子〉になり切ったときに生まれる強力な存在感はもちろん歌の場合でも同様の働きを見せ、1971年公開の東映動画作品「アリババと40匹の盗賊」内で歌われた“この日のために”や“雲がおしえてくれる道”などはその真骨頂と言えるだろう。

設楽博, 大山のぶ代 『アリババと40匹の盗賊』 東映ビデオ(2017)

また、病気のために永眠した声優・TARAKOが、シンガーソングライターとして長らく音楽活動をしていたことは皆さんきっとご存じだろうと思う。80年代から90年代にかけてコンスタントにアルバムのリリースを行なっており、「ちびまる子ちゃん」をはじめとするアニメのときとは異なるシリアスな歌世界を追求していた。そんな彼女の魅力が最大限に発揮されたのがバラードだ。しっとりとした風情をまとった“悲しいほど優しくて…”(1998年)などを聴くと、どこまでも透きとおった歌声の綺麗さに驚かされるはずだ。