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「フリクリ」やトリビュート盤が生んだ新たなリスナーとの出会い

そして、ピロウズは基本的にスマート。メッセージに重きを置いた曲やロッカバラード以外の曲尺は3分前後にスッキリまとめられたものが大半で、オリジナルアルバムは全10曲ほどで構成、総収録時間も約40分と、ビートルズのように飽きの来ないサイズで作られている。

口ずさめるくらいキャッチーな真鍋のギターソロがほぼすべての楽曲で鳴っていて、安定感抜群な佐藤のドラムがいつも全体をクールに支えているのも心地いい。

ライブにおいても、MCはしっかり面白く、演奏はバシッと決める。笑わせてもくれるし、締めるところは締める内容だっただけに、自然と没頭できた人が多いのでは?　山中が〈こう聴いてほしい〉〈こう生きてほしい〉などとオーディエンスに説くことは一切なく、コテコテの煽りもなし。細部に美学が行き届いていた。怒髪天らベテランバンドたちに、日本武道館ワンマンの道を切り開いたのもピロウズだ。

『Please Mr.Lostman』以降、どこまでがピロウズの黄金期なのかは意見が分かれるところだろうけど、2009年発表の16thアルバム『OOPARTS』まではそう呼んでいいと思う。

the pillows 『OOPARTS』 avex trax（2009）

邦楽 邦楽ポップ／ロック

第3期のほとんどにあたる約12年も黄金期が続き、ほぼ毎年クオリティの高いオリジナルアルバムを出してきたバンドは稀有でしかない。

長く続けつつ、その過程で素晴らしい曲をコンスタントに生み出してきた山中の多作ぶり、音楽に飽きない才能も並外れている。何しろ、メインのピロウズをやりながら、THE PREDATORSやCasablanca、さらにはソロでも曲を書き、2020年には驚異的なペースで計8作品をリリースしたこともあった。

ほかの物事に興味を向けず、音楽だけに夢中なミュージシャンは案外いない。今なおリスナーとして音楽を愛し、〈音楽よりも楽しいことはない〉とその可能性を信じ続ける純粋さもバスターズを惹きつけている。

ピロウズの音楽は、全編にわたって彼らの曲が使われたOVA「フリクリ」を介して海外にまで波及。トリビュートアルバム『SYNCHRONIZED ROCKERS』『ROCK AND SYMPATHY -tribute to the pillows-』のリリースも大きかった。特に前者では、Mr.Childrenが“ストレンジ カメレオン”を、BUMP OF CHICKENが“ハイブリッド レインボウ”を、ELLEGARDENが“Funny Bunny”をそれぞれ取り上げ、ビッグネームによる代表曲のカバーを通して、たくさんの新たな出会いが生まれた。

VARIOUS ARTISTS 『SYNCHRONIZED ROCKERS』 キング（2004）

邦楽 邦楽ポップ／ロック

後世に伝えるための作品としては、山中が信頼を寄せるオクイシュージ監督による結成30周年記念映画「王様になれ」（主演：岡山天音）を観てほしい。どういう人たちに愛されたバンドなのかを、よりリアルに噛み締めることができるので。

オクイシュージ, 岡山天音 『the pillows 30周年記念映画「王様になれ」』 バッド・ミュージック・グループ音楽出版（2020）

映画／映像

 

ピロウズがいて良かった

風の強い日を選んで走ってきたピロウズが、ロックシーンにおいて特別な存在になった理由は、ここまで記したとおり。万人受けするバンドでこそなかったものの、ヒット曲よりも名曲が圧倒的に多い、ミュージシャンに好かれるミュージシャンとなった3人は、本当に幸せな時間を過ごしたのだと思う。

ラストライブでの「（何を言われようがずっと）俺は空気を読まず、勝手にやっていた」という山中の言葉も、人生にメリハリをつけるような今回の決断も、普段と同じようにロックンロールを楽しんだ翌日に事後報告した発表の仕方も、解散を銘打った公演をやらなかったことも、やはり潔くスマートでピロウズらしかった。

名曲の数々はきっと再評価される。ピロウズがいて良かった。そう思える人がまだまだ増えていくことを願う。なお、メンバー各自の活動は続く。山中は2003年に発表した11thアルバム『ペナルティーライフ』で〈死ぬまで音楽をやる決心をしている〉ので、今後も精力的に作品を届けてくれるはずだ。そんな想いを示した曲で、本コラムを締めたい。

 

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■対象店舗
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■特典
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