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生きるのが大変な時代に抗う行為

 そんな今回のコラボを推進した仲間は、エルトン長年の創作パートナーとして名高い作詞家のバーニー・トーピン、そしてプロデュース担当のアンドリュー・ワットである。アンドリューはエルトンと縁深いレディー・ガガの新作『MAYHEM』も仕切ったばかりの売れっ子だが、近年はレジェンド世代の魅力を現代的に引き出す手腕で知られているわけで、もともとエルトンともオジー・オズボーンの『Ordinary Man』(2020年)をきっかけに出会ったそう。その後は先述の“Simple Things”を制作し、自身の取り組むエディ・ヴェダーやローリング・ストーンズの作品にもエルトンを招いていた。

 2023年10月にLAのサンセット・スタジオに入った彼らは白紙の状態から制作を開始。ブランディが「皆がアイデアを出し、互いのアイデアに耳を傾ける。まるで家族のようだった」と振り返るように、アンドリューが双方の意見を橋渡ししながら全体を指揮し、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのチャド・スミス(ドラムス)、ピノ・パラディーノ(ベース)、ジョシュ・クリングホッファー(キーボード)ら敏腕プレイヤーを演奏に迎えて20日間でアルバムを完成させたという。

 クレジット上ではいずれの曲もバーニーとアンドリューを含めた4人の共作となっていて、それは各曲の密接な創作プロセスを物語るものでもある。主にギターを弾き語るブランディと、ピアノで曲を書くエルトンそれぞれの主導曲が半数ずつ収録されているであろうことは、アルバムを聴き進めていくにつれて推察できるはずだが、各人の作風が触発し合いながら融和している点にこそ本作の魅力があり、それはブランディが「エルトン・ジョンのソングライティングの基準に皆が従えば、おのずとすべてはレベルアップする。それは音楽を作るうえで、とんでもなく挑戦的でインスピレーションに満ちた環境でした」とコメントしている通りだ。

 オープニングを飾る“The Rose Of Laura Nyro”は曲名が示唆するようにローラ・ニーロの“Eli’s Comin’”を引用したアレンジが幕開け感をダイナミックに演出する。続く“Little Richard’s Bible”は表題そのままのピアノ・ロックでエンターテイニング。さらにはブランディ主導の“Swing For The Fences”がジェリー・リー・ルイス作法のロックンロールなのも楽しく(デヴィッド・ボウイを連想させる終わり方も最高だ)、そうした作風の相互乗り入れは随所で楽しめるだろう。一方で、繊細な人間関係についてブランディが呟くように独唱する5曲目のフォーク・ナンバー“You Without Me”、そして自身の行く末すらも達観したようなエルトンの歌唱とピアノで送るラストの“When This Old World Is Done With Me”というソロに近い曲も個性を発していて印象的だ。そして何より先述の“Never Too Late”と、哀愁を帯びつつ感動的な表題曲は伝統的なエルトン節の最新形として圧倒される。それを解釈するブランディの情熱的な歌唱の素晴らしさも、このコラボならではの魅力を届けてくれるはずだ。

 「現代はいろんなことが起きていて、生きるのが大変な世界。平穏さや達成感を見い出すのは難しい。そのなかに喜びや歓喜の瞬間を探そうとするのは、ある種の時代に抗う行為かもしれない。それこそが、まさにこのアルバムの意味することなのです」(ブランディ)。

左から、ブランディ・カーライルの2009年作『Give Up The Ghost』、2011年のライヴ盤『Live At Benaroya Hall With The Seattle Symphony』(共にColumbia)、エルトン・ジョンの2021年作『The Lockdown Sessions』(Mercury)、ドリー・パートンの2023年作『Rockstar』(Big Machine)

関連盤を紹介。
左から、ローラ・ニーロの68年作『Eli And The Thirteenth Confession』(Columbia)、リトル・リチャードの57年作『Here’s Little Richard』(Specialty)

エルトン・ジョンが客演したアンドリュー・ワット制作のアルバム。
左から、オジー・オズボーンの2020年作『Ordinary Man』(Epic)、エディ・ヴェダーの2022年作『Earthling』(Republic)、ローリング・ストーンズの2023年作『Hackney Diamonds』(Rolling Stones)