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記録破りの〈キャプテン・ファンタスティック〉が50周年!

 2025年はブランディ・カーライルとのタッグ作『Who Believes In Angels?』という最新の傑作を生み出したエルトン・ジョン。他にも曲を書き下ろしたミュージカル「プラダを着た悪魔」のキャスト歌唱集が出たり、77年に録音されたレイ・クーパーとのライヴ盤『Live From The Rainbow Theatre With Ray Cooper』も公式リリースするなど、過去のレガシーも現在の歩みを後押しするかのようだ。60年代から活躍するレジェンドは数多いが、ここまで過去と現在の両輪を相互に機能させながら現役アーティストとしての推進力に変えている人もそう多くないのではないか。そこに登場したのが、75年の傑作『Captain Fantastic And The Brown Dirt Cowboy』の50周年記念エディション。近年は『Madman Across The Water』(71年)や『Honky Chateau』(72年)の50周年記念盤が続いたが、名盤の多いエルトン史においても同作は批評的な評価の面でも商業的な成果の面でも破格の一枚である。

ELTON JOHN 『Captain Fantastic And The Brown Dirt Cowboy (50th Anniversary Edition)』 Mercury/ユニバーサル(2025)

 75年5月に発表された『Captain Fantastic And The Brown Dirt Cowboy』は、エルトンにとって9枚目のアルバム。コマーシャルな成功という意味では、出荷段階でゴールド・ディスクに認定され、全米チャートでいわゆる初登場1位を獲得(その後7週間も首位をキープ)した初めての作品としても知られている。本国UKではベイ・シティ・ローラーズに阻まれて最高2位だったものの、フランスやオーストラリア他でも首位を獲得。ただ、その前に出た『Goodbye Yellow Brick Road』(73年)や『Caribou』(74年)のように複数のシングル・ヒットを含む作品と、本作は明確に違う。エルトン自身も当初は商業的な要素が希薄だと捉えていたこのアルバムは、エルトンと相棒である作詞家のバーニー・トーピンのキャリアと友情の物語を描いた自伝的なコンセプト作品なのだ。

 物語はエルトン(キャプテン・ファンタスティック)とバーニー(ブラウン・ダート・カウボーイ)がロンドンで活動を始めてからブレイクするまでの苦闘を自伝的に綴っていて、曲作りもストーリーの流れに沿って収録順に行なわれたそう。それだけに歌詞の普遍性は薄く、アルバムから唯一シングル・カットされた“Someone Saved My Life Tonight”は、7分近くかけて情熱的なピアノとリリカルな歌唱、哀愁味のコーラスが紡がれていく美しいエルトン節で全米4位のヒットとなったが、内容はエルトンの破綻した婚約とそれに伴う実際の自殺未遂を綴った極めてパーソナルなものだ。本編は友愛を歌った“We All Fall In Love Sometimes”からの“Curtains”で幕を下ろし、さまざまな体験を琴線に触れる音楽へと昇華する姿から天性のエンターテイナーぶりを窺わせる。

 また、カリブー・スタジオでチームと1か月近くを過ごして作品を練り上げる制作プロセスもそれまでとは違ったそうで、エルトンが「全曲がすでに書き上がった状態でスタジオに入ったのはあれが初めてだった。バンドでリハーサルを重ね、それからスタジオに入り、ほとんど一発録りで録音していった」と述懐しているように、念入りに推敲された詞と曲の完璧さと、周到なリハーサルを経た演奏陣の一体感や瞬発力が両立されたことも、本作が格別な一因だろう。デイヴィー・ジョンストン(ギター)、ディー・マレー(ベース)、ナイジェル・オルソン(ドラムス)というエルトン・ジョン・バンドのオリジナル・メンバーが揃った70年代で最後のアルバムという事実も重要だ。

 今回の50周年記念盤は2CD仕様。オリジナル本編を収めたDisc-1には、ビートルズ曲をジョン・レノンと演った“Lucy In The Sky With Diamonds”(74年)、フィリー・ソウル調の“Philadelphia Freedom”(75年)という2つの全米No. 1シングルを含む4曲をボーナス収録。すべて初出のDisc-2にはセッションのデモ音源を6曲と、2005年に行われた〈Captain Fantastic Live〉のアトランタ公演から7曲が収められている。セッションは素朴な歌と演奏だけで迫るものがあるし、クワイアを従えたダイナミックなライヴ音源も圧倒的だ。

 そのライヴの翌年にエルトンは続編にあたる『The Captain & The Kid』を作り上げ、30年にわたるバーニーとの絆の続きを描いた。そんな両者の歩みは、最新作『Who Believes In Angels?』に至る現在まで続いている。

左から、ブランディ・カーライル&エルトン・ジョンの2025年作『Who Believes In Angels?』(EMI)、エルトン・ジョンのライヴ盤『Live From The Rainbow Theatre With Ray Cooper』(Rocket/Mercury)、エルトン・ジョンが手掛けたミュージカルのサントラ『The Devil Wears Prada: The Musical』(Mercury)

左から、エルトン・ジョンの71年作の50周年記念盤『Madman Across The Water (50th Anniversary Edition)』、72年作の50周年記念盤『Honky Chateau (50th Anniversary Edition)』(Mercury)、デイヴィー・ジョンストン・バンドの2022年作『Deeper Than My Roots』(Spirit Of Unicorn)