伴走者チャールズ・ステップニーの偉大な功績
このアルバムで、グループのリーダーであるモーリス・ホワイトと共同でプロデュースを務めたステップニー。近年、シカゴの名門インディレーベル、インターナショナル・アンセムからリリースされたホームレコーディング集『Step On Step』(2022年)を通じてその名を知った方も多いだろう。元々ブルース/ソウルの名門チェスでサイケデリックなアレンジや先駆的なエフェクトワーク、緻密なハーモニーを得意とした彼は、EW&Fのキャリア最初期から関与しており、前作『Open Our Eyes』(1974年)でもアソシエイトプロデューサーとしてクレジットされている。本作で共同プロデューサーを務めてから翌1976年の急逝まで、本作含め計3枚のアルバムで、彼らは以前にも増して濃密な共同作業を行っていくことになる。
なお、同時期にホワイトとステップニーはデニース・ウィリアムス『This Is Niecy』(1976年)やジ・エモーションズ『Flowers』(1976年)といった現在も愛される名盤群を共同プロデュースするなど驚異的な仕事量をこなしており、彼が1970年代中盤のソウル/R&Bの進化に果たした功績は非常に大きい。改めて早逝が惜しまれる。
さて、ミニー・リパートンの諸作でもおなじみの、ステップニーによる流麗でドラマティックかつ抜き差しの効いたアレンジは、EW&Fの本作では分離の効いたミキシングも相まって、切れ味鋭い当時最先端のサウンドを聴かせてくれる。エンジニアは、前年に全米1位を獲得したリンダ・ロンシュタット『Heart Like A Wheel』(1974年)にも関与し、新進気鋭の存在だったジョージ・マッセンバーグ。例えば、アルバム3曲目“Happy Feelin’”の左チャンネルで高速で現れては消えるヴィブラフォン風のカリンバ(と思われる)プレイは、EW&F・ステップニー・マッセンバーグの3者が揃ってこそのアレンジに思える。また、歌心が光る名バラード“Reasons”は、EW&Fらしいリズムのキメがモダンさを醸すのはもちろんのこと、要所でエレクトリックピアノとチェンバロを並列して添えるアレンジが、ジャズファンクとクラシックソウルの共存具合を分かりやすくリスナーに伝えてくれるようで、プロデューサー2人の律儀さ・丁寧さを感じずにはいられない。加えて、“All About Love”・“See The Light”のアウトロや“Africano”のイントロなど、元来スピリチュアルジャズ的な要素が色濃かった初期EW&Fを思わせるインタールード的な展開が織り込まれているのも白眉だ。
そして、ステップニーは本作のタイトルトラックである永遠の名曲、“That’s The Way Of The World”の作曲にも携わっている。
時を超える名曲“That’s The Way Of The World”の没入感
冒頭で曲単位の評価が先行する風潮を嘆いたが、“That’s The Way Of The World”については、どうしても言葉を尽くして語らずにはいられない。テンションコードを多用しつつ、包み込むような穏やかな優しさを感じさせる本曲は、ビルボードソウルチャート5位・総合12位のヒットを記録。当時から多数のカバーを生み、いまなお多くのリスナーに愛されるスタンダードナンバーである。
もっとも、同様のコード特性を持つヒット曲の先行事例としてはマーヴィン・ゲイ“What’s Going On”(1971年)やスティーヴィー・ワンダー“You Are The Sunshine Of My Life”(1972年)などがあり、決して“That’s〜”のそれが斬新・特殊だったというわけではない。ここで注目したいのは、ディスコブーム前夜の当時のR&Bシーンの中では非常にゆったりとした約82 BPMというテンポ設定で、かつ一定のグルーヴを保ったまま6分近く※演奏し続けるという、その〈没入感〉を誘う構造だ。
例えば“What’s Going On”の魅力を一段上に引き上げているのは、巧みに仕掛けられた劇的な転調だろう。コールアンドレスポンスの応酬からスキャットパートへと至る、あの一連の甘美さを味わうために本曲を再生している方もきっと多いはずだ。“You Are The Sunshine Of My Life”も終盤の転調はもちろん、コンガが牽引する130前後の比較的速いBPM設定や、スティーヴィー以外に2人のボーカルが主旋律を取るトリッキーさも耳を惹く。
一方、“That’s〜”は展開の山場を作るような派手なコード展開は抑えられ、(ブラス隊を含む演奏自体はゴージャスさを含みつつ)ピークを拒むように一定のテンションをスローテンポで保ち続ける。あたかもテンションコードの心地よさにリスナーを浸らせ続けるかのような曲作りは、1980年代以降に人気を博すようになったR&Bカテゴリ〈クワイエットストーム〉の先行事例のひとつであり、要素だけを拾えば1990年代のヒップホップソウルや2010年代以降のアンビエントR&Bが持つ没入感にも通じるように思える。また、のちに吉田美奈子“夜に頬の灯”(1982年)、レニー・クラヴィッツ“It Ain’t Over ’Til It’s Over”(1991年)といった“That’s〜”へのリスペクトを感じさせる楽曲が多数リリースされているほか、ナズ“Where Are They Now (West Coast Remix)”(2007年)のようなサンプリング曲、さらに近年に至るまでカバー曲が定期的に世に出ていることからも、本曲が時を超えて愛される魅力〜フォーマットの強度を持ち合わせていることが窺える。