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とても大切な作品

 トムの要請でマークが送ったさまざまな状態のファイルは、外出できない期間の両者がアイデアを往復する形で楽曲へと発展していった。トムの録った幽玄なヴォーカル・トラックをマークはさらに加工し、トムはシンセサイザーの演奏やエフェクトも加え、マークはリリックの表現に意見し……といった相互のインプットが重層的な12曲を構えた『Tall Tales』の音風景を織り成している。

 輪郭が比較的ハッキリした音像のメロディアスな先行曲“Back In The Game”や“This Conversation Is Missing Your Voice”は双方の個性の好相性ぶりで期待を大いに掻き立てる出来だったが、重厚な大曲“A Fake In A Faker’s World”をオープニングとしたアルバムは、マークの実験的でアトモスフェリックな意匠と表現の幅を広げたトムの歌唱が見事に融和し、内省的で底知れぬ奥行きを備えた見事な楽曲が並ぶ。空間を遊泳する歌声が印象的な“Bugging Out Again”や聖なるエモーションに溢れた“The Spirit”、ブリーピーなエレポップの“Gangsters”、不穏なマーチング調の“Happy Days”など、曲ごとに隅々の蠢きを感じさせつつアルバム全編でも圧倒的な物語性で迫ってくるはずだ。

 それに加えて、『Tall Tales』の世界観を深く共有してヴィジュアル面を担当したジョナサン・ザワダも今作には欠かせない、3人目のメンバーとも言える存在だ。ラスティやフルームのジャケに顕著な独特の作風で知られる彼は、この10年ほどのマーク関連作でお馴染みのヴィジュアル・アーティストで、トムが総監督を務めたクラーク『Sus Dog』(2023年)のアートワークも手掛けていた。すでに公開されてきた数々のMVも、音楽と並行して構想されてきたジョナサンの長編映像作品の断片だという。

 トムをして「とても大切な作品」になったと言わしめる『Tall Tales』。オウテカやエイフェックス・ツインらに影響を受けて音楽性を進化させてきたトムにとってはワープからの初リリースという感慨もあるのだろうが、高い地平で相互の美意識を融合させたこの傑作が両者にとっての新たな重要作となったことは間違いない。

トム・ヨークの近作を紹介。
左から、ザ・スマイルの2024年作『Wall Of Eyes』『Cutouts』、2024年のサントラ『Confidenza』(すべてXL)、エグゼクティヴ・プロデュースを担当したクラークの2023年作『Sus Dog』(Throttle)

マーク・プリチャードの参加作を一部紹介。
左から、レディオヘッドのリミックス集『TKOL RMX 1234567』(Ticker Tape)、エイミー・ワインハウスのリミックス集『Remixes』(Island)、アディソン・グルーヴの2012年作『Transistor Rhythm』(50Weapons)、オンマス・キースとのコラボを収めたコンピ『Hyperdub 10.1』(Hyperdub)、リンダ・パーハクスの2017年作『I’m A Harmony』(Omnivore)