©Tom Sheehan

活動再開と同時に『Hail To The Thief』期のライヴ盤が登場!

 どこかのリユニオン劇に触発されたわけでもないとして、9月にツアーのスケジュール公開によって再始動を明かし、この11月からヨーロッパ・ツアーをスタートするレディオヘッド。2016年に『A Moon Shaped Pool』をリリースし、同作のツアーで2018年8月にフィラデルフィアで公演を行って以来バンドとしての動きはなかったため、5人が揃って活動するのは7年ぶりのことだ。もちろんその期間が各々にとって空白だったわけではなく、トム・ヨーク(ヴォーカル/ピアノ他)はソロ名義作やマーク・プリチャードとの連名作、サントラ『Confidenza』などを発表したほか、ジョニー・グリーンウッド(ギター/キーボード)らと組んだザ・スマイルでは3枚ものアルバムを意欲的にリリース。そのジョニーは映画音楽の世界でも活躍し、「リコリス・ピザ」(2021年)に続いては話題作「ワン・バトル・アフター・アナザー」(2025年)も手掛けたばかりだ。コリン・グリーンウッド(ベース)はニック・ケイヴらの作品で演奏し、エド・オブライエン(ギター)はEOB名義で初のソロ作『Earth』(2020年)を発表。フィル・セルウェイ(ドラムス)も自身で歌うソロ作『Strange Dance』(2023年)を発表している。そのように個々が放つ進行形の存在感に触れていたり、とりわけ変幻自在なトムの動きを楽しんできたリスナーも多いはずだが、思い入れの総量という意味では、やはりこのビッグな名前が待たれていたのは言うまでもないだろう。

RADIOHEAD 『Hail To The Thief (Live Recordings 2003-2009)』 XL/BEAT(2025)

 そんな再始動のタイミングに歩調を合わせる格好で届いたのが、『Hail To The Thief (Live Recordings 2003-2009)』だ。これはレディオヘッドが6作目『Hail To The Thief』(2003年)リリース後の2003年から2009年にかけてロンドン、アムステルダム、ブエノスアイレス、ダブリンで行ったパフォーマンスの模様を収録したライヴ盤である。ミックスはベン・バプティ(アデル、ストロークス、U2他)、マスタリングはマット・コルトン(エイフェックス・ツイン、アークティック・モンキーズ他)が手掛けた。この時期のライヴ音源がコンパイルされたきっかけは、トムがロイヤル・シェイクスピア・カンパニーによる「ハムレット」のために『Hail To The Thief』の収録曲をアレンジしてスコアを共同制作したことにあった。そうして生まれた舞台作品「Hamlet Hail To The Thief」は今年の4〜5月にマンチェスターのアヴィヴァ・スタジオで上演され、6月にロイヤル・シェイクスピア劇場でも上演。そして、その制作過程においてトムは『Hail To The Thief』当時のライヴ音源を改めて聴き直し、その内容に惹かれたのだそうだ。トムはこのようにコメントしている。

 「舞台作品のアレンジをどう組み立てるか考える過程で、当時のライヴ音源を聴かせてもらうよう頼んだ。そこで耳にした、演奏に宿るエネルギーに衝撃を受け、ほとんど自分たちだと認識できなかった。それが次の一歩を見つける助けになり、これらのライヴ録音をミックスしてリリースすることを決めた(自分たちだけで抱えておくなんて正気の沙汰じゃない)。すべてがとてもカタルシスなプロセスだった」。

 そもそも本作の前提となった『Hail To The Thief』は、実験性を極めた『Kid A』(2000年)と『Amnesiac』(2001年)までの先鋭的なモードを包括しながらも改めてバンド・サウンドに立ち返った転機の一作であった。当時そこに込められたメッセージと現在の状況の皮肉な変化も感じつつ、いままさにライヴ・パフォーマンスを起点として活動を再開しようとしているタイミングにおいて、今回のライヴ・アルバムは実に相応しい一枚だと言えるのではないだろうか。

左から、マーク・プリチャード&トム・ヨークの2025年作『Tall Tales』(Warp)、トム・ヨークの2024年作『Confidenza』、ザ・スマイルの2024年作『Wall Of Eyes』『Cutouts』(すべてXL)、ジョニー・グリーンウッドによるサントラ『One Battle After Another』(Nonesuch)、フィリップ・セルウェイの2023年作『Strange Dance』(Bella Union)、EOBの2020年作『Earth』(Capitol)