正体不明の気配で聴き手を絡め取る、甘美で倒錯した音世界――複雑怪奇な大作の衝撃も冷めやらぬなか、新たな一手は〈異常〉との境界を曖昧にする……!
新たな広がりを得て
「テーマとかは特になくて。アルバムを出してツアーをしたことで、自分のなかでの広がりが絶対にあるだろうなと思っていたから、その部分をうまく曲に反映できればそれでいいかなと。あとはもう、(メンバーが)自由にやってくれれば」(京、ヴォーカル)。
sukekiyoが、新たなミニ・アルバム『VITIUM』を完成させた。精神をゆっくりと蝕ばんでいく狂気と、触れればたちまち音もなく崩れ去る繊細さが同居した耽美かつ複雑怪奇なサウンド、そして、それをより増幅させ、さらなる深淵へと導く京の声が織り成す圧倒的な世界を紡ぎ出したデビュー作『IMMORTALIS』――あの衝撃の大作から1年も置かずに新作を作り上げ、それが我々のもとに届けられるということは、メンバー全員がこのプロジェクトへの手応えをしっかりと感じている証左でもあるだろう。
「サウンドとして、よりおもしろいものを追求するというのは常にあるんですけど、活動をしていくことでそれがより高まっていった部分もあったし、いろんな可能性がどんどん広がっていったから、肩肘張らずに作品作りに取り組めたところはありました」(YUCHI、ベース)。
『VITIUM』は、前作のリリース後に行われた国内外でのライヴ活動を経て生まれたこともあり、前回に比べ、聴き手の肉体に訴え掛けてくる要素が強い。京も、本作を制作にするにあたって「個人的にはグルーヴを感じられる曲があってもいいかなと思った」そうだ。前作が、sukekiyoという得体の知れない存在がそこにいることを提示したものだとするならば、今作ではその実態がじわじわと形になり、力強く躍動しはじめた感覚を覚える。
「低音で刻むとか、普段の自分だったらなかなかやろうとしないリフも入れているし、重い感じのグルーヴがあるのは前作とはあきらかに違う部分だと思いますね。そういったものは人間誰しも好きでしょうし、sukekiyoらしいしっとりとした曲との差別化もできたんじゃないかなと思います」(UTA、ギター)。
「原曲者が作ってきた叩き台の段階でちょっと跳ねているところがあったから、ツアーの合間とかに流れていたジャズ的なものやフュージョン的なものを入れてみようかなと思って。でも、あくまでも要素のひとつという感じですけどね」(未架、ドラムス)。
この〈あくまでも一要素〉というのは、sukekiyoにとって非常に重要な部分だ。sukekiyoの楽曲からは、歌謡曲、教会音楽、メタル、インダストリアル、他にもアジアやラテンといった世界各地の民族音楽のテイストを感じ取ることができる。しかし、それらが複雑に絡み合い、結果として既存の音楽ジャンルでラベリングすることが不可能な音像に――〈不可能〉というよりは、それを〈不要〉と感じさせるほどの説得力を、どの曲も持っているのだ。
「“celeste”は、京さんと2人で部屋に閉じこもって作っていったんですけど、その作業をすると、弦楽器隊が作るものとはあきらかに違う独特なものが生まれるんです。前作はそうやって作ったものが原曲になることが多かったんですけど、今回はその作業をあまりしていなかったんですよ。それで、京さん以外の4人でいるときに、そういう曲が必要だという話をしていたんですけど、やっぱりその通りでしたね。だから、いちばん特殊であり、sukekiyoの元になっている作り方だと思います」(匠、ギター/ピアノ)。
「〈遊びながら〉っていう言い方が適しているのかはわからないけど、いろいろ試しながらバランスを見つつ(アレンジを)進めていくんですよ。曲本来が持つイメージが散漫になったり、ちょっと露骨すぎたりしたら微調整していく感じ。でも、ここにいる人間全員、そのへんの感覚が麻痺してきていて(笑)」(京)。
「楽器隊はアレンジしていると突き詰めすぎて見えなくなってしまうところがあるんですけど、そこを京さんが冷静に判断してくれるので、いつも安心してやれます」(UTA)。
ズレてることを再確認
本作のタイトルである『VITIUM』は、ラテン語で〈異常な、欠点、過ち〉という意味。綴られた言葉のなかには目を背けたくなるようなおぞましい描写もあるが、どことなく甘美さがあり、その倒錯した世界に魅了されている自分に気付かされる。
「それが常識だと思っていても、他の人からすればそうではなかったりすることってそこらへんに転がってるし、みんなそういう部分を持っているんだけど、変人扱いされるから隠したりするじゃないですか。でも、実際のところ、その境目はよくわからないなと思っていて。今回の〈歌詩〉を書いていたら、そういうテーマ性のものが多かったので、このタイトルにしました。歌詩自体はいつも困らないですね。楽曲が持っている個性と色が濃いからすぐに出てきた」(京)。
また、前作で話題を呼んだ異色なラインナップによるコラボレーションは、今作の初回盤でも敢行。今回招致されたのは、X JAPANのヴォーカリストであるToshlや、リンプ・ビズキットのギタリストのウェス・ボーランド、元ナイン・インチ・ネイルズであるダニー・ローナーの別名義=レンホルダーなど非常に豪華。そのなかでも目を引くのが、俳優である三上博史の存在だろう。
「役者の人がやっている音楽って、聴きやすいものを歌っているイメージがあるんだけど、三上さんがやっている音楽はそれとまったく真逆で、〈これをよくCDで出せましたね!?〉みたいな曲ばっかりなんですよ。ものすごく癖があってカッコイイから、昔から大好きで。というか(コラボ相手は)全員好きなんですけどね。でも、こういうので絡む人って、だいたい似たジャンルの人だったりすることが多いじゃないですか。そういうものも良いとは思うんですけど、やっぱり想定できる範囲内になるのかなと思っていて。そこを超えたことをするのがsukekiyoかなと思っているので」(京)。
前作とは大きく異なったアーティスト・ヴィジュアルなど、どこを取っても予測不能なsukekiyoは、これからも予想だにしない新たな衝撃と興奮を与えてくれるだろう。
「この前、カウントダウン・ライヴに出たんですけど、僕ら的には結構聴きやすい曲を選んだんですよ。最初は全部マニアックなものでいくのもいいかなと思ったんですけど。でも、なるべくそういった部分は抑えたライヴをしたら、観ていた人から〈悪魔〉とか〈地獄〉とか言われて(笑)、自分たちはだいぶズレてるんだなと再確認しましたね。でも、むしろこれで良いんだと思っています」(京)。