[ 不定期連載 ] プリンスの20XX年
LOVE 4EVER AND IT LIVES IN...
6年ぶりのアルバムが届いてしまいましたので今回も一筆書きの特別編!
プリンスが歌うアメリカ
およそ6年ぶりとなるプリンスのオリジナル・アルバム『Welcome 2 America』。2010年に録音されたというこの作品が2021年に届けられるということは、そこにあるメッセージが現在も有効だということに他ならない。多くの人が閉塞感に苛まれているであろう2021年、まさか〈アメリカへようこそ〉という言葉を呑気に受け取る人はいないだろう。そこにある〈アメリカ〉はチャイルディッシュ・ガンビーノが“This Is America”(2018年)で明らかにした〈アメリカ〉でもあるし、かつてカーティス・メイフィールドが『There's No Place Like America Today』でシニカルに掲げた〈アメリカ〉のことでもある。もしくはプリンス&ザ・レヴォリューションが“America”(85年)で歌った〈アメリカ〉のことでもあるに違いない。アルバムからの先行シングル“Welcome 2 America”で語られるのは、寡占企業による支配、フェイクニュースの横行、性差別や人種差別といった社会問題に対するプリンスなりの危機感の表明だ。とりわけ2020年代の状況にもそのまま響くのは人種差別に対する言葉だろう。彼がいわゆるフレディ・グレイ事件にすぐさま反応してプロテスト・ソング“Baltimore”をリリースしたのは2015年のことだが、それ以前からイラク戦争の頃にアラブ系の人々への差別が広がったことに対して“Cinnamon Girl”(04年)を書いたり、プリンスは折に触れて問題意識を露にしてきたわけで、今回の『Welcome 2 America』もその流れに位置する部分が大きいということだ。
〈Black Lives Matter〉にまつわるプリンスの言及といえば、その2015年のグラミー授賞式で最優秀アルバム部門のプレゼンターとして登場した際のスピーチが有名だろう。当時よく拡散されたのは本筋にあたる〈Albums still matter〉という一節のほうだったが、ここでプリンスは〈アルバムを覚えてる? 本や黒人の命と同じように、アルバムは大切なものだ〉と例に挙げている。前年にNYやファーガソンで無抵抗の黒人男性が白人警官に殺された事件によって〈Black Lives Matter〉というスローガンは大きく広まったが、その意識はプリンスの中でも昔から強いものだったのだ。
が、そうした思いを表明する『Welcome 2 America』が結局リアルタイムで世に出ることはなかった。当時のプリンスがそうしなかった理由は本人にしかわからないが、それどころか『Welcome 2 America』がお蔵入りした時点からプリンス自身がアルバムというフォーマットを〈忘れる〉長い空白期に入っていく。2010年7月に『10Ten』を発表し、2014年9月に突如『Art Official Age』とサードアイガールとの『Plectrumelectrum』の2作を出すまでの約4年間は、彼のキャリアにおいて異例のブランクとなった。