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社会に立ち向かう気高いソウル

 この頃から彼女は口籠ることなく社会的、政治的なメッセージを発していく。イスラエルによるガザ侵攻、米軍のバグダッド空爆、ナイジェリアでのエボラ熱、シングルマザーの問題などに斬り込んだ2014年のシングル“We Are Here”もそのひとつだろう。同年12月の第二子出産を経て、米大統領選に沸く2016年11月に発表した『HERE』も同様。夫スウィズ・ビーツたちとのイルミナリーズというチームでの共同作業を中心としたアルバムで、エイサップ・ロッキーを招いた“Blended Family (What You Do For Love)”ではスウィズと別の女性たちとの子どもや、スウィズの前妻マションダを含めた〈混合家族〉を謳い、新しい家族のあり方も提示した。

 2018年には音楽業界における女性の地位向上を訴えた〈She Is The Music〉にも参画。過去にアンジー・ストーンやイヴの作品で共闘(客演)し、“A Woman’s Worth”や“Superwoman”といった曲で女性の価値や強さを歌っていたアリシアらしくフェミニストとしての態度も強化していく。2019年と2020年に2年連続でグラミー賞授賞式の司会を務めた際も、主催者であるレコーディング・アカデミーの性差別を告発し、女性の権限を訴えたことは語り草だ。

 夫や息子たちに捧げたシングル“Raise A Man”(2019年)を経てリリースした2020年の『ALICIA』が、コロナ禍や〈Black Lives Matter〉運動再燃というタイミングも相まって人々を鼓舞することになったのも、日頃の社会との関わりがそうさせたのだろう。先行シングルの“Underdog”や“Good Job”は、当初の制作動機とは別に、コロナ禍の最前線で働く医療従事者やエッセンシャルワーカーを称えるアンセムとなる。また、警察官の暴力で我が子を失った母親の目線で歌った“Perfect Way To Die”も黒人の命が軽視される状況の中で緊張感をもって響いた。音楽的には、自身の『The Element Of Freedom』を発端とするプログレッシヴなサウンドの集大成とも言え、若手アーティストたちとの共演からは後輩をフックアップする先達としての自覚も感じられた。

 『ALICIA』に連なるムードと共に初期の〈ピアノと私〉的な感覚を打ち出した『KEYS』を発表したのはアルバム・デビュー20周年にあたる2021年。翌年に同作の拡大盤を出した後に彼女はRCAを去り、インディペンデントのアーティストとして再出発している。2022年には初めてのクリスマス・アルバム『Santa Baby』を発表。その後も、映画版「The Color Purple」のサントラ曲やスウェディッシュ・ハウス・マフィアとの連名シングルを出すなど、マイペースな活動を続けている。

 2025年の第67回グラミー賞では〈Dr. Dre Global Impact Award〉を受賞。いまの彼女が授かるに相応しい、ブラック・ミュージックに貢献したアーティストに贈られる賞だ。豊かな音楽素養を背景にした楽曲と逞しい精神で社会に立ち向かうアリシアは、トレンドウォッチャーに消費されて終わるような存在ではなく、これからも気高いソウル・ウーマンとして生き続けていくに違いない。 *林 剛

アリシア・キーズの参加作を一部紹介。
左から、97年のサントラ『Men In Black』(Columbia)、99年に録音されたトリーナ・ブラッサードの2008年作『Inside My Love』(Expansion)、アンジー・ストーンの2001年作『Mahogany Soul』(J)、イヴの2002年作『Eve-Olution』(Ruff Ryders/Interscope)、クリスティーナ・アギレラの2002年作『Stripped』(RCA)、ドレイクの2010年作『Thank Me Later』(Young Money/Republic)、カニエ・ウェストの2010年作『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』(Roc-A-Fella/Def Jam)、ファレル・ウィリアムズの2014年作『G I R L』(Columbia)、2014年のサントラ『The Amazing Spider-Man 2』(Columbia)、エミネムの2017年作『Revival』(Shady/Aftermath/Interscope)、マーク・ロンソンの2019年作『Late Night Feelings』(RCA)、DMXの2021年作『Exodus』(Ruff Ryders/Def Jam)、リル・ダークの2023年作『Almost Healed』(Alamo)、2024年のサントラ『The Color Purple』(WaterTower/Gamma)

アリシア・キーズがプロデュース参加した作品を一部紹介。
左から、ナズの2002年作『God’s Son』(Columbia)、マリオの2002年作『Mario』、2005年のトリビュート盤『So Amazing: An All-Star Tribute To Luther Vandross』(共にJ)、アレハンドロ・サンスの2009年作『Paraíso Express』(Wea Spain)