
仄暗い情念のグラヴィティーで引き込む演奏
ヤマハのHPで2024年1月5日に公開されたマメタ・オサム氏とのインタビューの中で、五条院は「自分のルーツの一つでもあるのは、わたしの肉体が生まれた地、青森県弘前市にある『ねぷた』というお祭りの『ねぷた音楽』です。太鼓の重いビートと軽やかなお囃子の笛の音が組み合わさって、それを演奏しながら道を練り歩くものなんですけど、私のオリジナルジャンル『ピアノビートミュージック』の原点が、そんな『ねぷた音楽』と言えるかもしれません。(中略)オリジナル曲のフレーズも日本の伝統的な音階である五音階(ペンタトニック・スケール)やエキゾチックな音階を奏でることが多いです」と自身の音楽づくりを分析していた。
総合エンターテインメントサイト〈ナタリー〉には、“難破船”の作曲者で歌手の加藤登紀子との対談も掲載されたが、カバーアルバム『お愛集』を貫く独特のグラヴィティー(重力)、仄暗い炎を思わせる情念は洒脱な加藤よりも青森県の大先輩、東洋音楽学校(現在の東京音楽大学)でクラシックの声楽を学んだ昭和の大歌手、淡谷のり子に通じる何かを感じさせる(ちなみに淡谷は青森市、〈ねぷた〉ではなく〈ねぶた〉の文化圏の出身だ)。“秋桜”の暗さに至っては〈本家〉の山口百恵を凌駕、橋本愛が絶望のどん底に突き落とした“木綿のハンカチーフ”にも匹敵する暗さで圧倒する。忘れてならないのは、日本の歌謡曲やポップスも、明治維新後の新政権が伝統音楽から西洋音楽への切り替えを強制的に行なった後の時代の産物という事実。音階がどうであろうと、作曲や楽器の用い方のルーツはモーツァルトやベートーヴェンと同じ世界に存在する。
聴き慣れた名曲を独自の空間へ解き放つ五条院ワールド
『GOJOSSIC』の“幻想即興曲”を繰り返し聴いてみた。ここでも五条院のピアノは独特の音の重力を発揮する。左手の強打が〈おクラシック音楽〉へのオブセッション(強迫観念)を完全に断ち切り、〈内なる日本〉から溢れ出る情念の世界へと収れんしていくラストは、とりわけ感動的だ。遺作の“ノクターン”や“革命のエチュード”“ポロネーズ”など他のショパン作品へのニュートラルなアプローチと比べても、“幻想即興曲”への特別な思いは際立つ。
リストでは“ラ・カンパネラ”を語りかけるように紡ぎ、“愛の夢”と一体の世界を構築する設計の巧みさを思わせる。一般には〈カッチーニの“アヴェ・マリア”〉として広まった楽曲にも旧ソ連時代の作曲家ウラディーミル・ヴァヴィロフの名前を明記する見識も示し、情緒てんめんというよりはゆったり、重く沈潜するベクトルで弾ききる。ドビュッシーやサティのフランス音楽は一転、繊細でソフトな感触を前面に出す。順番は全く逆だが、アルバム冒頭に収められた米国現代の作曲家フィリップ・グラスの“Etude No. 6”では〈さあ、お聴きいただきましょう!〉という意気込みが全開、激しい疾走感と強い打鍵でリスナーを一気に五条院の〈ワールド〉へと引き込むのが印象的だった。
クラシックの基本にあくまで忠実、十分な技術を備えつつ、日本人が西洋音楽と向き合って150年余りの歴史の中で〈土着化〉させてきた部分にも目を配り、聴き慣れた名曲を独自の空間へと解き放つ。五条院凌はクラシックのピアニストとしても、とても興味深い存在だといえる。
RELEASE INFORMATION
リリース日:2025年10月1日(水)
品番:APWA-0032
形態:CD/配信(※14はCD限定収録)
配信形式:Dolby Atmos対応(※対応環境推奨)
価格:3,300円(税込)
TRACKLIST
1. Etude No. 6
2. La Campanella(ラ・カンパネラ)
3. Étude Op. 10 No. 12 “Revolutionary”(練習曲「革命」作品10-12)
4. Scherzo No. 2 in B Flat Minor, Op. 31(スケルツォ第2番 変ロ短調 作品31)
5. Étude Op. 10 No. 5 “Black Keys”(練習曲「黒鍵」作品10-5)
6. Liebestraume(愛の夢)
7. Traumerei(トロイメライ)
8. Gymnopédie No. 1(ジムノペディ)
9. Clair de Lune(月の光)
10. Ave Maria
11. Nocturne No. 20 in C-Sharp Minor, Op. posth.(ノクターン第20番 嬰ハ短調 遺作)
12. Fantaisie-Impromptu in C-Sharp Minor, Op. 66(幻想即興曲)
13. Polonaise No. 14 in G-Sharp Minor(ポロネーズ第14番嬰ト短調)
14. Piano Sonata No. 14 “Moonlight”: I. Adagio sostenuto, Op. 27-2(ピアノソナタ第14番「月光」第1楽章 作品27-2)
LIVE INFORMATION
Raw Fabulous Sound – Encore at Tokyo Opera City Concert Hall

2025年8月29日(金)東京・初台 東京オペラシティコンサートホール
開場/開演:18:00/19:00
チケット:6,000円
※全席指定席、tax in
※3歳以下入場不可、4歳以上チケット必要
Info:DISK GARAGE
『GOJOSSIC』プレミアムお降臨おパーティー
2025年10月4日(土)東京・俺のフレンチ グランメゾン大手町
開場/お食事/開演:17:30/18:00/19:00
チケット:20,000円
※税込、全席指定、お食事・1ドリンク付
※未就学児入場不可
Info:Worldapart ltd.
