孤独という感覚は、孤独そのものではない――。
ひとつひとつのアルバムが私的なジャーナルのようなものだ――と語っていたアレクサンドル・タローにとって、それらは親密さや友愛の実りを謳うドキュメントでもある。「昨日も児玉桃が訪ねてきてくれましたが、ピアニストの友人と世界中の思いがけないところで再会して、短い時間でも話ができるのはうれしい。みんな移動が多い生活だから、もしかしたらとても孤独かもしれないし」とタローは言う。彼もまた孤独なのだろうか? 「私自身はひとりでいても、寂しくはない。孤独という感覚は、孤独そのものではないから」。
『Four Hands』はまさにそうした友情の結晶ともいうべきアルバムだ。児玉桃、ダルベルト、ブラレイやシャマユ、メルニコフ、ヴィキングル・オラフソン、はてはゴーティエ・カピュソンやフィリップ・ジャルスキーともピアノ連弾を多彩に聴かせている。フォーレの“子守唄”はニコラ・アンゲリッシュ最後のスタジオ録音ともなった。「パンデミックのさなかで、なおさら友達とこのアルバムを創りたかった。4手のレパートリーの地図を描ければと」。
タローの敬愛は、生きている友人たちには留まらない。当初ラヴェル役での出演も打診されたというが、アンヌ・フォンテーヌ監督による伝記映画では、辛辣な批評家の役を演じ、作曲家の手の代役と演奏も手がけた。サウンドトラックには自作のワルツも2曲収められている。「いろいろなやりかたでアプローチしてきましたし、いつもそばにいた作曲家という感覚があります。夢のなかでは、ラヴェルに100回くらい会っているはず。でも、彼の声は聞こえないし、話もできないんです」。
バッハのトランスクリプション集『Bach Tharaud』では、さまざまな楽器の声を、モダンピアノの響きで親密に息づかせた。「かなりむかしからアンコール用に書き溜めてきた編曲を集めました。人生が進み、年齢を重ねるほど、自分らしくなってくるというか、より自分自身になる。そういう面も演奏に出ていると思います」。
バッハの次のアルバムが同時代の協奏曲集というのも実にタローらしい。「ティエリ・ペク、ラモン・ラスカノ、アレックス・ナンテの多様な3曲をまとめます。毎年1曲初演をしているので、5年に1枚くらいのペースでディスクが創れたらと思う。昨秋はニコ・ミューリーの新作をサンフランシスコで初演しましたし、来シーズンにはオスカル・ストラスノイがジャン=ギアン・ケラスと私のために、新しいアイディアで二重協奏曲を書いてくれています」。