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自分たちの信念を貫いた作品

 より広い場所に届くだろうポップなアルバム『The Clearing』のオープニング・ナンバー“Thorns”で歌詞の主題となっているのが、シンガーとしてパフォーマンスすることであるのも興味深い。そんな自分のことをナルシシストでありマゾヒストだと歌うエリーだが、真意はどこにあったのだろうか。

 「『Blue Weekend』のときの名残みたいなものかな。あの時期はインタビューで〈これはあなた自身のこと?〉って何度も質問されて、なんで人は自分にこんなことを訊くんだろうって思ったりしてたのね。私は、自分自身を作品やアートに曝け出すという行為そのものに興味がある。日記の一節と作品との間にはどんな境界線があるのか、とか。それを歌うことで気分が良くなるときもあれば、悪く感じるときもある。“Thorns”は『Blue Weekend』のあとに私が最初に書いた曲のひとつで、〈よし、これで一区切りつけて、また次の曲を書こう〉っていう、ちょっとした切り替えの曲だったの。だから歌詞で〈ナルシストかも〉とか〈マゾヒストかも〉と言ってるけど、本気でそう思ってるわけじゃない。むしろ、それを大袈裟にしてみる、っていう遊びに近いんだよね。歌のなかで自分自身を肥大化させて演じてる、みたいな」(エリー)。

 〈決算〉や〈解決〉を意味するタイトルがつけられた『The Clearing』を貫くテーマは、混沌を抜けたあとの静けさや明瞭さとのこと。そう思うと、〈あるがままの自分でいられますように〉という歌い出しのクロージング・ナンバー“The Sofa”が穏やかなコーラスに包まれた美麗なバラードに仕上がっているのにも納得させられる。パフォーマーとして自分を広い場所に曝け出すことを覚悟しながら、自分らしさを見失わないことを大切にしているのがストレートに伝わってくるのだ。今回、〈本当に作りたかったアルバムを作れた〉という自負があるからこそ、その境地に至ったのだろう。

 「アルバム制作の途中で〈この音で本当にいいのかな?〉って自問することもあったけど、自分たちのやりたいやり方でじっくり時間をかけて作り上げたし、それがとても大事だったから続けられた。簡単なことじゃなかったけど、そうやって自分たちの信念を貫いて、この音にたどり着けたんだと思う」(エリー)。

 「このアルバムで僕がいちばん誇りに思っているのは、エリーのヴォーカルなんだ。このレコードを人に聴かせると、みんな口を揃えて〈歌声がすごい!〉と言うんだよね。僕らは世界でもっとも有名なヴォーカリストと仕事をしてきたすごい人といっしょにやってて、そんななかでエリーが歌を録ってる姿は本当に特別だった。 スタジオにいた僕らみんなもエリーの姿を見て、感動してたんだ。このアルバムが本当に特別なのはそこなんだと思うし、僕はそれをすごく誇りに思っている」(ジョエル)。

 アートワークにもそんな自信がよく表れている。ロックとポップの境界を越えて、いま、ウルフ・アリスは自分たちだけの音を堂々と鳴らしているのだ。 *木津 毅

グレック・カースティンの参加作を一部紹介。
左から、バード・アンド・ザ・ビーの2007年作『The Bird And The Bee』(Blue Note)、シーアの2024年作『Reasonable Woman』(Atlantic)、リアム・ギャラガーとジョン・スクワイアの2024年のコラボ作『Liam Gallagher & John Squire』(Warner UK)