2021年タングルウッド音楽祭でスタートした、ベートーヴェン・プロジェクトも第4作に!

 〈ベートーヴェン・フォー・スリー〉の第4弾がリリースされる。このシリーズは、エマニュエル・アックス(ピアノ)、レオニダス・カヴァコス(ヴァイオリン)、ヨーヨー・マ(チェロ)によるピアノ三重奏で、ベートーヴェンの交響曲とピアノ三重奏曲を組み合わせた企画だ。 2021年のタングルウッド音楽祭で3人が交響曲第2番をピアノ三重奏版で演奏したことを契機に始まったという。

EMANUEL AX, LEONIDAS KAVAKOS, YO-YO MA 『ベートーヴェン・フォー・スリー~交響曲第1番/ピアノ三重奏曲第5番「幽霊」/ピアノ三重奏曲第4番「街の歌」』 Sony Classical(2025)

 最新作では、交響曲第1番に、ピアノ三重奏曲第5番“幽霊”、同第4番“街の歌”を組み合わせる。先行配信されている交響曲第1番の第3楽章メヌエットを聴くと、軽快にして見通しのよさがずいぶんと際立つ。3人編成という小回りの効いた運びで、すっぱりと整理された響きが心地いい。

 アンサンブルの核になるのは、長いあいだコンビを組んできたマとアックスだ。丁々発止のデュオというかつてのスタイルというより、すべての瞬間を愛おしむように、ゆったりと音を交わらせていく。

 そこに、より若い世代のカヴァコスが加わる。カヴァコスといえば、力強さと官能性を兼ね備えたヴァイオリニスト。しかし、彼がここまで力を抜いて、しなやかに歌わせることを前面に出すのは珍しい。アックスとマの作り出す引力が、カヴァコスから新たな魅力を引き出したといってもいいだろう。

 たとえば、シリーズ第3弾のアルバムに入っていたピアノ三重奏曲第7番“大公”の終楽章。じつによく旋律を歌わせる。縦線をきっちりと合わせることなく、ゆるっとしたアンサンブルは、SP録音時代の演奏を聴いているかのように自由だ。持ち前の明るい響きを生かし、ふんわりした融通無碍な境地は、このメンバーならでは。交響曲第6番“田園”の終楽章などでも、とろけるような歌を連ねていく。

 今回の2つのピアノ三重奏曲でも、このトリオでしか聴くことのできない響きが実現されているはず。推進力頼みの若手には決して真似できぬ、アダルトな演奏が楽しめよう。