新顔レオニダス・カヴァコスもすっかり定着――新たなフェーズで挑戦するベートーヴェン
ピアノのエマニュエル・アックスとチェロのヨーヨー・マは、お馴染みのコンビ。ベートーヴェンのチェロ・ソナタを最初に録音したのは、1980年代はじめのことだ。ここに三重奏をなすべく加わるヴァイオリンといえば、当時ならアイザック・スターンで決まりだったわけだが、もはや故人。今から5年前、そこにレオニダス・カヴァコスがやって来てブラームスの三重奏曲をリリースしたときは、少なからず驚いたものだ。近年主流の辛口ヴァイオリンのなかでも、ひときわストイックと言おうか、おのれの信じるフレーズの理路を優先し、共演者も置いてけぼりにしかねない――そんな印象を、当初、筆者は持っていたからだ。
ところがそれは杞憂だった。筆者が間違っていたのか。カヴァコスが変わったのか。依然、理路を蔑ろにしないのだが、サウンドとして三者はすっかり溶け合っている。優れた指揮者が率いる老練なオーケストラのように。今回のベートーヴェンに関しても同じことが言えよう。しかも演目がそもそも管弦楽だから、これはなお好都合。第2交響曲のほうは、よく知られた伝作曲者自身による(その実F.リースの?)編曲。第5交響曲のほうは、コロナなので室内版でということか、コリン・マシューズによる書下ろしアレンジである。
編曲の出来栄えとしては、対位法的により巧みな第5に軍配が上がるだろうが、第2もどうして悪くない。たとえば第1楽章、展開部に入ってすぐ。細かく動くピアノの周りで、弦楽器が和声の土台となる根音を次々にぶつけてゆくさまがよく分かる。しかしそれも、ひとえに奏者たちの〈読み〉の賜物なのだ。このように、原曲では埋もれがちな音の動きが手に取るように分かる。全編にわたって余裕あるテンポを採っているのも奏功したであろう。第5番フィナーレに明滅する〈運命の動機〉を見よ!
純粋にベートーヴェンが好きという人にも手に取って欲しい1枚。そうすればたちまち、アーティストたちの虜にもなるはずだ。