人生の大きな節目を前にヨーヨー・マが録音した小品集

(C)Taylor Crothers

 

 この10月に来日公演を行う世界的チェリスト、ヨーヨー・マ。その来日に合わせて新譜もリリースされる。タイトルは『ソングス・フロム・アーク・オブ・ライフ』。長く共演を続けて来たキャサリン・ストット(ピアノ)との録音で、ヨーヨーにとっては1981年以来となる小品集のアルバムである。バッハの《アヴェ・マリア(グノー編曲)》に始まり、シューベルトの《アヴェ・マリア》で終わる全19曲(日本盤にはボーナス・トラック3曲が付く)。アルバム・タイトルの意味や選曲の意図などを聞いた。

 「タイトルのARC of LIFEのARCには『虹』の意味もあるかもしれないし、アジア人にとっては重要な『円』の一部の『弧(アーク)』という意味もある。円とは何かがコンプリートした状態とも言えるので、ARC of LIFEには人生における円の一部という意味合いも感じられると思う」

YO-YO MA Songs From The Arc Of Life Sony Classical(2015)

 とヨーヨー・マ。単なる小品集を作るのではなく、もっと自分たちにとって意味のある、また聴き手にとっても意味のあるアルバムを作りたかったようだ。

 「ピアニストのキャシー(キャサリン・ストットのこと)とはもう30年程共演して来たけれど、この20年ぐらい、ずっと『ふたりで演奏してきた曲を録音したいね』と話し合っていた。そして大きなきっかけになったのが、僕がこの10月で60歳になるということ。60歳の誕生日を目前に、これまでの人生を振り返り、そして60代という新たな人生の一章に向けて作品を作りたかった。『これまでの人生はどんな人生だったか?』、『これからの人生をどう歩んで行きたいか?』と問いかけた。そしてこのアルバムが出来た。そういう意味でこのアルバムは『人生のサウンドトラック』でもある。自分のお気に入りの曲はもちろん、小さな頃に母親と聴いたナーサリー・ソングから青年時代に夢中になった曲、そして人生で大きな出来事があった時に演奏していた曲、大きな影響を与えられた曲など。人間はそれぞれ違う人生を送っているけれど、“共感出来る接点”はあると思う。このアルバムは、キャサリンとの30年にわたるパートナーシップを祝うアルバムであると同時に、リスナーに対しても『皆さんにもそれぞれの人生のサウンドトラックがありますよ』と呼びかけるインヴィテーションでもある」

 多くの音楽ファンが待望していたであろう、ヨーヨーの名曲小品集。しかし、実際に曲を選ぶとなるとかなり難しそうだ。

 「実際に何を録音するかについては、キャシーと数年間も話をしてきた。そして実際に候補曲をあげてから、最終的にこのトラックリストに絞り込むまで12ヶ月もかかった。その中にはキャシーが推薦してくれたソッリマの作品などが入ることになったし、あまり演奏して来なかった作品も含まれているよ」

 なかでもメシアンの《世の終わりのための四重奏曲》より〈イエスの永遠性への讃歌〉は印象的な作品と言えるだろう。

 「これは今回のアルバムの中では長い作品だけれど、初期の段階から収録したいと考えていた曲だった。音楽、そして人生においてもそうだけれど、自分自身の枠組みから超越していくことは大事だよね。例えば“がんじがらめ”の状況に置かれることもある。その大変な状況を乗り越えて行く様子を描いた曲に思える。他の例で言えば、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番のような感覚かもしれない。冒頭の繰り返しの部分は、その状況が“普通ではない”ということを表現している。メシアンがこの曲を書いた時の状況は、収容所の中にいて、演奏家は4人しかいなかった。そして凍えるような1月にこの曲は書かれたと言われている。そんな極限状況でも、この曲は実に神々しく、愛、人生、永遠、そして何千もの虹が見えるような実に美しい作品。メシアンの体験した極限状況は、私たちにも訪れるかもしれない。辛い体験を経て、人間は成長して行くということを実感する作品だ」

 様々な意味が込められた19の作品。ヨーヨー・マとキャサリン・ストットの演奏の中に、自分の人生を見つけてみるのも面白い。

 

LIVE INFORMATION
ヨーヨー・マ 2015年来日公演日程
○10/24(土)15:00開演 会場:軽井沢大賀ホール(長野県)【完売】
○10/26(月)19:00開演 会場:サントリーホール 大ホール
○10/27(火)18:45開演 会場:愛知県芸術劇場 コンサートホール
○10/28(水)19:00開演 会場:ザ・シンフォニーホール(大阪府)
※26日、27日、28日は キャサリン・ストット(p)との共演
www.yo-yoma.com/