(C) Danny Clinch

頂点に立つ3人が奏でるバッハの小宇宙

 ヨーヨー・マ、クリス・シーリー、エドガー・メイヤー。共演を重ねてきた説明不要の腕前の3人が集い、自ら編んだスコアで奏でるのはバッハのトリオ・ソナタ、ヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタ、そして鍵盤楽器のために書かれた作品。どのナンバーもシャープな質感の澄んだ響きでピリッとした空気が流れ、いわゆる 「癒し系」「ポップ調」の雰囲気は微塵もない。3人の卓越した技術、感性が重なり合って緻密に組み上げられた彫りの深いバッハの音楽が展開されている。

YO-YO MA,CHRIS THILE,EDGAR MEYER Bach Trios NONESUCH/ワーナー(2017)

 一方で裃を脱いだ自由さも顔を出す。トリオ・ソナタのピンポンと弾む3人の絡み合いはゲーム的面白さだし、《フーガの技法》のコントラプンクトゥス13ではマから始めるヴァージョンとシーリーから弾き出すヴァージョンの2音源を収録。前者が割と軽めの進行、後者は沈み込んでいくタッチの翳りのにじむ表現になっていて3人が持つパレットの多彩さに驚かされる。

 3人で最も雄弁に語るのはシーリー。ブラッド・メルドーとのデュオアルバム(WPCR-17668)で音の山と谷の鮮やかさ、リズムの抉り、怜悧にして温かい語り口に改めて驚嘆したばかりだが、本アルバムでは前回のソロによるバッハ(WPCS-12933)より一層練れた、清新かつ奥行きあるサウンドをマ、メイヤーとの響き合いの中で繰り広げる。マはやや艶消しの抑え気味のトーンで一貫し、2人との織りなしの美しさを重んじた印象。そしてメイヤーの地に足がつき、しかも切り返しの鋭い低音がアンサンブル全体を芯の通ったものとしている。

 トリオ・ソナタに始まり、ヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタで締める構成も巧み。1時間でバッハの小宇宙を探検した気分になれる。日頃バッハになじみの薄い方が聴けば「その先」を知りたくなろうし、筋金入りのバッハ・ファンなら色々思考が膨らむことだろう。

 3人の才を楽しみつつ、バッハの音楽の持つ大きなキャパシティに敬服する、そんな1枚。