
集大成だけど、サントラとは違う魅力も満載。
現代の映画音楽シーンで、人気と実力においてハンス・ジマーとトップの座を分け合う現役コンポーザー、アレクサンドル・デスプラの新譜は、パリ管弦楽団を指揮した自作演奏会のライヴ盤で、公私にわたるパートナーのソルレイ(ドミニク・ルモニエ)と相談して決めたという、そのコンセプトは〈パリ=ハリウッド〉。
パリで生まれ、近年はフルート界のスター奏者エマニュエル・パユとコラボした作品や川端康成の短編小説を原作とするオペラなど、ドビュッシーやラヴェルのようなフランスの伝統を受け継ぐ21世紀のコンテンポラリーな〈クラシカル〉音楽を生み出している彼だが、ここでは敢えてハリウッドの英語系作品に絞ってレパートリーを披露することで、映画音楽作曲家としてより自由で幅広い作風をリスナーにアピールしている。
そのため出世作のひとつである「真夜中のピアニスト」(2005年、ジャック・オーディアール監督)のようなフランス映画が抜けているが、それでもここ約20年の輝ける名作が散りばめられた、集大成であるのは間違いない。
いずれも、金管と木管のバランスに優れた技巧的な演奏スタイルに定評のあるパリ管弦楽団のために、サントラとは違う編成でコンサート用に新たに編曲された美しいヴァージョンなのも聴き所。しかもメイン・テーマや主題歌を並べた名曲コンサートとは一線を画して「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」にしても「ハリー・ポッターと死の秘宝」も「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」もそれぞれ複数の楽曲を編集して聴かせるのが見事。
極めつけは〈CD 1〉での、実話に基づく王室を舞台にした3作品からなる[03]~[05]〈スイート・ロワイヤル〉や、デスプラとの〈黄金コンビ〉で新作「ザ・ザ・コルダのフェニキア計画」(9月19日公開)も楽しみなウェス・アンダーソン監督の音楽をまとめた[06]~[08]など、ここでしか聴けないスペシャルな組曲たち。これはぜひ日本でも演奏会を実現してほしい!