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新鮮だと思えることをめざしたい

 新作において言葉の選択の変化を如実に感じられたのは、ラヴソングの存在ゆえだ。前述の“会いたい”のような、ある種のストレートさを持ったラヴソングは、新鮮に響く。

 「ラヴソング的な曲はずっと前から書きたいと思ってたんです。今回は〈やってなかったことに挑戦する〉という意味でやってみました。どうしてもラヴソングは大袈裟な感じに聴こえるので難しいなっていう思いがあったんですけど、今回はシンプルにできた。メロディーに関しても、自分が普段だったらちょっとポップすぎると感じて避けるような展開でもやってみようと思ったんです。まだ自信はないけど、それは新しい服を着ているような状態に自分が慣れてないだけかもしれないし」。

 新作の完成直後にアメリカのメディア向けに僕が行ったインタビューでは、彼女は「〈自分のアウトプットの幅を広げたい〉と思って客演にたくさん参加した結果、提示されたテーマに沿ったメロディーや歌詞を他人のトラックに乗せながら考える工程に慣れていきました」とも語っていた。そう考えると、前作からの5年は、彼女にとって必要なスパンでもあったのだ。

 そして、作品の構成として、目を引くのが“オープニングテーマ”と“エンディングテーマ”の存在。まるでこのアルバムが一本の映画であるかのように、それぞれ独立しているはずの楽曲たちから成るストーリーラインを浮かび上がらせる。

 「アルバム一枚を頭から最後まで聴いてほしいっていう思いの現れでもあります。曲ごとの時系列はバラバラですけど、アルバムとして1個のストーリーになっている。イメージとしてはゲームのRPGでもあるんです。ゲームの電源を入れてスタート・ボタンを押す前のタイトル画面みたいなイメージと、全部クリアした後に流れるスタッフロールの感じ。私なりに納得のいく形でそれを出そうとしたんです」。

 9月のアメリカ・ツアーでは、ヘッドライナーとしての公演も控えている。そのNYやLAでの公演は早々にソールドアウトした。シンガー・ソングライターであり、アレンジャーであり、プロデューサーでもある新作を携えてのツアーは、自分で自分に責任を持って前面に立つ舞台でもある。その心構えは「開き直りですね」と彼女は笑った。

 「日本でも私の歌詞ってわかりやすいわけではないですし、海外での評価となると、何を魅力と思ってくれているのかもっとわからない。私よりも歌がすごく上手くて声がいい人もたくさんいますし、本当に謎です。でも、私自身は自分というものからは離れられないし、これからも〈いままでどおり〉をレヴェルアップさせていくことしかできない。ある意味で我儘ですよね。でも、これからも誰かをお手本にするんじゃなく、自分が新鮮だと思えることをめざしたい」。

 アルバム・タイトルの〈McGuffin=マクガフィン〉とは、作劇上の重要なアイテムでありながら、代替可能なもの、という意味合いを持つ映画用語。この新作に至る彼女自身の気付きと決意を示す言葉でもあるのだろう。

 「外から求められてる私はこれなんじゃないかという逡巡とか、音楽的なアレンジの足枷になっていた固執とか、そういうものが制作する過程で取れていった感覚があった。だから、タイトルを考えていくなかで〈McGuffin〉という言葉が適してるなと思ったんです。まだ自分でも気付いていないところで、もっといろんな深い意味が実はあるのかもしれない」。

 彼女が向かう先は、きっと並大抵じゃない。NY在住のタトゥー・アーティスト、パトリック・イーデルが手掛けたアルバムのアートワークのように、まさに未知への冒険の入り口に立っている。だが、自分を信じて作り上げたこの新作が心強い剣であり盾になる。mei eharaの新たなRPGは、ここからまた始まる。

『All About McGuffin』で演奏しているメンバーの参加作を一部紹介。
左から、トリプルファイヤーの2024年作『EXTRA』(SPACE SHOWER)、Coffの2019年作『Tiny Music』(Valy Vonz)、Summer Eyeのライヴ映像作品『Summer Eye Sound Syndicate 年末単独公演「末広」』 (Pillow Union/ Bigfish Sounds)、柴田聡子の2024年作『Your Favorite Things』(AWDR/LR2)、沼澤成毅の2023年の7インチ“結晶”(沼澤成毅)

『All About McGuffin』に参加したジェイク・ヴィアターがマスタリングした近年の作品を一部紹介。
左から、ミチの2025年作『Dirty Talk』、ジョン・キャロル・カービーの2023年作『Blowout』(共にStones Throw)