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響きを愛しむ心――創立100周年を迎えた名門合唱団のさりげなさを味わう

 創立100周年を迎える名門、スウェーデン放送合唱団がこの秋6年ぶりに来日。同団の魅力はまずは何より混声の厚い響き、それから清涼感に満ちた歌いぶり。北欧なればこその湿気の少なさが〈感情のべたつき〉をも遠ざけるのか、音楽に対する団員たちの気取らぬ心持ちが、ステージに接するたび、はっきりと伝わってくる。

 さて、今回、東京オペラシティコンサートホールでの彼らのステージは、サブタイトルを〈レターズ・オブ・ラブ〉と銘打つのだそう。Loveとは、誰かに恋することでもあれば、何かを愛しむことでもある。だから、恋文に類する曲もあれば、慈愛の精神を伝える歌もあるのだろう。

 例えば、スウェーデンの作曲家スヴェン=ダヴィッド・サンドストレムの“4つの愛の歌”では、聖書の雅歌の英訳を基に各声部が静かに重なり合うが、よく聴けば不協和音の瞬間も多いのに、なぜか全体的には無理なくしっくりと寄り添い、最後にひとつの美しい〈音の包み〉が出来上がる。実のところ、2008年に発表された本曲は、いまや世界中で歌われ、名作の呼び声高い一作であるのだが、スウェーデン放送合唱団が歌うと、その包まれた音世界がひときわ大きく膨らむよう。聴き逃せない。

 また、R. シュトラウスの無伴奏合唱曲“夕べ”も期待の一作である。19世紀末に作曲され、ドイツの文豪シラーの詩に寄せた調べだが、本作では実に16ものパートがピアニッシモから徐々に熱気を帯びてゆき、大きな広がりの境地へと展開。最後に、古代ギリシャの戦士の愛の憩いへと至る。その壮大なさまは大いに聴きごたえあるもの。特に、16声部がpppで重なる締め括りの部分など、〈静寂こそ安らぎ〉を音で示すといった極上の瞬間である。どれほど疲れていても、夕べのこのロマンチックなひと時があれば、精気を蘇らせることができるのだと、音楽が教えてくれるのだ。

 このほか、合唱ファンのみならず世界中のクラシック音楽ファンに知られたエストニアの作曲家アルヴォ・ペルトの作からは、キリスト教の世界観を中心とする4曲が披露される。しめやかな“マニフィカト”や英語の歌詞に拠る“鹿の叫び”のもの悲しさなど、いずれも同団ならではの高い仕上がりが期待される曲ばかり。一般的に、こうしたレパートリーでは女声の高音域が〈鄙びた〉感になりがちだが、指揮者カスパルト・プトニンシュの卓抜した差配なら、柔らかく円やかに響くはず。大いに期待してみたい。

 


LIVE INFORMATION
スウェーデン放送合唱団

2025年10月21日(火)東京オペラシティ コンサートホール
開演:19:00

■出演
カスパルス・プトニンシュ(指揮)
スウェーデン放送合唱団

■曲目
〜レターズ・オブ・ラブ〜
ペルト:マニフィカト、ヌンク・ディミティス、⽯膏の壷を持つ⼥、⿅の叫び
ヒルボリ:Mouyayoum
R. シュトラウス:“2つの歌” op. 34から「⼣べ」
リゲティ:ヘルダーリンによる3つの幻想曲
S=D. サンドストレム:4つの愛の歌
B. ビーストレム:グローリア

https://www.operacity.jp/concert/calendar/detail.php?id=17118