
丁寧にいい曲を作ることから逃げちゃいけないよ
――田淵さんにとって、林さんの作る楽曲、多次元制御機構よだかの楽曲の良さとは?
田淵「僕ら世代に突き刺さるメロディなんですよね。周りにも〈よだかのメロディ、めちゃくちゃいいよね〉という人が多いし、とにかく曲がいい。ベース弾かせてって言ったのも、自分が好きな曲をステージで弾きたかったからなんですよ(笑)」
林「うれしいっす」
田淵「ただ、自分も作曲をやっているから何となくわかるんですけど、たぶん量産できるタイプじゃないなと思って。とにかく1曲1曲を丁寧に作るタイプだろうし、それをライブで大事にしていくほうがいいんじゃないかなと。メジャーデビューすると多少は量を作らなくちゃいけないじゃないですか。それでクオリティが落ちていることに気づかなくなるのは良くないだろうなと思ったし、丁寧にいい曲を作ることから逃げちゃいけないよ……という気持ちで応援していました。あと、似ているコード進行やメロディに恐れがないのもすごく良くて」
林「確かに、メロディのテイストを変えることで既存の曲と差別化しようという発想はないかも。メロディがある程度似ていたとしても、最終的にその曲が与える印象やイメージみたいなものを更新できていればいいのかなと」
エンジニア泣かせな多次元制御機構よだかの新世代的音作り
――メロディのクセが作家性につながっているところもありますからね。多次元制御機構よだかはもともと、どんなプロセスで始まったんですか?
林「2018年にフィッシュライフを解散させた後、自分1人でDTMの音楽をやろうと思っていたんです。自分なりに曲を作ったり、楽曲提供もさせてもらいながら2年くらい経って、2020年5月にいきなり“夜間飛行”という曲が出来たんですよ。降りてきたと言うとカッコ良すぎるんだけど、歌詞もメロディもコードも一気に出来て。
そのときにソロ名義というか、プロジェクト名を決めようと思ったんですよね。世の中でいちばんカッコいいものってなんやろ? と考えて、タイムマシンやなと。架空のタイムマシンの名前というか、〈もしJAXAがタイムマシンを開発したら、こういう名前にするんじゃないかな〉みたいな感じで付けたのが〈多次元制御機構よだか〉なんです。ちょうどその後、最初に話したキャラソンの話があって、田淵さんと邂逅して」
――それから5年以上経ち、よだかのメジャーデビュー作『ODYSSEY』のサウンドプロデュースを田淵さんが手がけることになったと。
田淵「そうなんですけど、さっきも言ったように彼のクリエイティビティに制約をかけたくない気持ちがあって。もちろん協力できることは何でもやろうと思っていたんですけど、〈プロデュースするぞ!〉みたいな感じではなかったんですよね。林くんは基本的に1人でできちゃう人だし、そこにあまり踏み込まないほうがいいなと。
メジャーデビューのタイミングでこういうことを言うのもアレですけど、インディーズ感みたいなものを忘れちゃいけない気もしていたんですよね。そこは林くん自身も、ディレクターやエンジニアにきちんと説明していて」
林「〈音がいい〉という概念にピンと来てないんですよね、未だに。秋元康さんの〈漁港のスピーカー論〉じゃないけど、いい曲はどんなスピーカーで聴いてもいいし、僕も少年時代はシャカシャカした音のイヤホンで好きな曲を聴いて感動していたので。みんながみんな最高の音響で聴けるわけではないし、最後はAirPodsで確認するというか、そういう方向がいいなと思っていたんです。
なので『ODYSSEY』の制作でも、エンジニアさんをめっちゃ困らせていました。せっかくきれいにまとめてくださったのに、〈こんなにロー(低音)は要らないです〉、〈楽器の鳴りも要らないです〉みたいなことばかり言っていて」
田淵「メジャー1発目から、そこまでちゃんと説明できるのがすごいです。ユニゾンは全然そんなことなくて、やりながら学んでいったので。よだかは最初からDTMだし、新世代感がありますね」
林「僕より下の世代はもっとすごいですけどね(笑)」
