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〈冷蔵庫にあるものでチャーハンを作った〉みたいな“或星”

――田淵さんのソロカバーアルバム『田淵智也』には、多次元制御機構よだかの“或星”が収録されています。

田淵智也 『田淵智也』 トイズファクトリー(2025)

田淵「はい。『ODYSSEY』の音源をそのまま使わせてもらってます(笑)」

「田淵さんが歌う“或星”、めっちゃいいんですよ」

田淵「恐縮です」

「本人じゃない人が歌うからこそ感動することってあるじゃないですか。田淵さんが歌う“或星”はまさにそうで。違う解釈というか、別の角度から“或星”を聴けるし、〈田淵さん、ここにグッときてくれたんだな〉みたいなことがわかるのも良くて。〈この歌い回しは真似してみよう〉と思ったりもしました(笑)」

――“或星”はどんなテーマで書かれた曲なんですか?

「また2020年の話に戻るんですけど、田淵さんと仕事するようになった頃は大阪に住んでいたんですよ。キャラソンのTD(トラックダウン)で東京に来て、そこで田淵さんと7年ぶりくらいにお会いして。

そのとき〈どうやって曲を書いているんですか?〉みたいなことを聞いたら、〈そんなに考えすぎなくていいよ〉と言ってくれたんですよね。〈そうか〉と思って、肩の力を抜いて作ったのが“或星”なんです。テーマがあったわけではなくて、冷蔵庫にあるものでチャーハンを作ったみたいな(笑)。そのほうが濃いものだったりするのかなと」

田淵「たぶん〈俺は自分の手癖が大好き〉みたいな話をしたのかな? “或星”は本当に好きすぎて、酔っぱらうとずっと聴くクセがあって。Apple Musicの当時の年間再生回数ランキングで1位になっています(笑)」

「うれしいです」

田淵「それくらい好きな曲なので、サポートとして演奏できるのもめっちゃうれしくて。アルバム『田淵智也』のコンセプトは自分が影響を受けた曲、自分の人生に大きく寄与したバンドの曲をカバーすることだったので、ぜひよだかの曲も収録したかったんですよね」

 

おまえが歌うんかい!

――そもそも〈ソロカバーアルバム〉というアイデアは、いつくらいからあったんですか?

田淵「UNISON SQUARE GARDENの20周年が2024年にあって。これまでの人生はほぼ〈20周年で武道館ライブをやる〉ということを目指してきて、それが完結した翌年に〈俺、40歳になるのか〉と思ったときに、一生に1回くらいはお誕生日イベントみたいなことをやるのもいいかなと。ずっとそういうことを意図的にやらないようにしていたのに、40歳になった瞬間、自分で歌うカバーアルバムを出したら、ボケ的に面白いかなと思いまして」

――誰も想像してなかったですからね、田淵さんが歌うカバーアルバム。

田淵「〈おまえが歌うんかい!〉というボケなんですよ、僕のなかでは。本当は自腹でやるつもりだったんですけど(笑)、事務所とレコード会社に話したら〈ぜひやりましょう〉と言ってくれて、話が大きくなってしまいました」

「しかも全曲ガチガチにレコーディングしているのがすごいですよね」

――“僕らについてすべて”(throwcurve)、“Dancing Zombiez”(a flood of circle)、“四月のカーテン”(パスピエ)、“センスレス・ワンダー”(ヒトリエ)は原曲のメンバーが自らレコーディング。そのほかの楽曲には鈴木浩之さん、シノダさん、小出祐介さん(Base Ball Bear)、堀江晶太さんなどが参加。めちゃくちゃ豪華ですよね。

田淵「そうなんですよ。尊敬する仲間たちに1人1人連絡して、〈やるよ〉って言ってもらえて、1年くらいかけてレコーディングを設定して。〈みんなにお祝いしてもらっている俺〉を誇示したいわけではないんだけど、こういう企画を相談して、みんなに〈弾くよ〉と言ってもらえる人生で良かったなと噛みしめるような制作でしたね。

自分が影響を受けた人、尊敬する人に、自分自身を音楽人として認めてもらえているのはこの上のない幸せで。クリープハイプの尾崎世界観さん、a flood of circleの佐々木亮介もそうだけど、〈こんなにすごい人が俺のことを嫌いにならないでいてくれるんだ、うれしい〉という。wowakaくん、津野米咲ちゃんもそうですけど、すごい才能を持った人たちに嫌われてないというのは、自分が音楽をやっていい理由にもなっているので」

「俺も同じですね。田淵さんが褒めてくれることがうれしいし、音楽をやっていいんだなと思えるというか」

田淵「これからもいっぱい褒めます」

「やった(笑)。田淵さん、バチバチにボイトレやってましたよね」

田淵「はい(笑)。メジャーデビューが決まった林くんがボイトレを始めたので、僕も一緒にやらせてもらって。高校の頃に文化祭で歌ったりしていたんですけど、5分くらいしか喉が持たないんですよ。なのでボーカルには向いてないんだなと思っていたんですけど、ボイトレを1回やったら、〈こういう声の出し方をすれば、負担が少ないのか〉というのがちょっとわかって。THE KEBABSのライブを観てくれた母親から〈あんた、歌上手くなったわね〉って言われました(笑)。

レコーディングに関しては、上手く歌おうとは思っていなくて。ずっとカラオケや家で好きなように歌ってきた曲だし、〈大好きな曲を好き勝手に歌っている〉という感じがあったほうがいいなと」