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俳優の演技や人となりを観察して生まれる演奏

――細井さんのパートは譜面があるんでしょうか? 〈まるで雲をつかむような演奏〉というト書きがあるところもあって、これは想像が膨らみそうで面白そうですね。

額田「細かく譜面に書いてるものもあれば、ざっくりしたお任せのものもあるし、両方ですね。もちろん任せるには任せるなりの意図があるので、それは伝えた上での作業になりますけど。例えばなにか不穏な感情を出したいっていう時に、譜面に細かく書くよりも、どんな音を鳴らしたいかを演奏者に委ねた方が単純に早いみたいな部分もあるし」

――ギターが主張しなかったらダメだけど、主張しすぎてもダメなのかな、と思ったんです。もちろん、場面にもよるんだろうけど、そのさじ加減が難しそうだなと。ただ、俳優の言った台詞に反応するっていう場合は、即興でやってきたことが活きてくるんじゃないかなと思うんですけど。

細井「今、反応って言い方をされましたけど、俳優の台詞やアクションに反応する場合はありますよね。でも、自分からも提示をしたりすることももちろんある。要するに相互作用なんですよね。

あと、それとは別にメンタル的な部分で、俳優や演出家とどれだけ話したかとか、ある俳優がどんな演技をする人なのか、どんな人なのかをどれだけ見てきたかとか、それも重要で。もっと言うと、稽古中にあるシーンをやる時に、そのシーンに何回もトライする俳優さんを見て、この人は台詞の中でどこを大事にしてるのかなとか、そういうのを一個一個観察しながら考える。自分も演奏しながら考えるんです。で、そうやって稽古中に蓄積されたものが、本番で出せるんじゃないかなと思っていて」

――脚本を読んでそれを理解することももちろん大事なんだろうけど、それだけではわからないことが稽古の現場で色々起きていて、情報として細井さんの中に入ってくるってことですね。だから、稽古場でのやりとりがなおさら重要になってくると。

細井「そういうことです」

 

人と人の間に壁があるからこそ立体的な表現になる

細井「あと額田君に聞きたかったことがあって。舞台で演奏する曲ができた時に、バッチリカッチリ弾いてほしい曲と、逆に詩的な表現だけがト書きとかであってフリーになっている場所がある。もしくはその間ぐらいに、トーナリティ(調性)とか拍子だけなんとなくあるケースもあったりする。要するにグラデーションがあると思うんだけど。それぞれを、なんていうのかな……どうやって振り分けてるの?」

額田「要するに余白をどれだけ設けるかっていう話だと思うんだけど、これはすごく難しいよね。まず台詞を第一に考えていくと自ずと他をどうしたらいいかが決まってくる。それは、音楽を軽んじているっていう意味ではなくて」

細井「なるほど。言葉っていうのは基本的に意味があるので、具体性を伴うと思うんだけど、音楽は歌詞がなければ基本的には抽象的な表現なので、身体に作用するみたいなイメージで演奏しているかも。言葉よりもイメージ」

額田「やっぱり余白の問題なんだろうな。例えば、朝遅刻しそうで急いで走ってますっていう場面に速い曲を当てるみたいなのは、余白があんまりないというか……」

細井「そうだね」

額田「今回の演奏者は3人とも、言語に強いというか、言葉を聴いてそこからどんなイメージを膨らませたらいいか、すごく繊細に作業していると思う。例えばアタックの強い台詞があった時にドラムでもアタックの強い音を叩く、みたいな直接的な演奏をドラムの渡君はやらないし」

――即興演奏でも、例えば相手が高い音を出したから低い音を出すとか、〈バンッ!〉って爆音を出してきたから、じゃあ自分も〈バンッ!〉って返すとかがあるじゃないですか。クリシェとして。でも、全く反応しないっていうのも反応の一つのあり方だったりしますよね。

細井「あー。思ったのが、反応として〈バンッ!〉っていう音に〈バンッ!〉って返すとかっていうのももちろんあり。ありっていうか、一つの方法として全然当たり前にあると思うんですけど、そうしないことで深みが出ることもある。反応しないことも一つの選択肢としてあるということによって、その場にいるのが例えば5人なら5人が音で会話をしていて、でもその間には壁がちゃんとあって、私が表現したいこと、あなたが表現したいことがそれぞれ存在する。その上で演奏や表現、パフォーマンスをしている。

その壁がまったくなくて一緒に演奏したら、平面的でのっぺりしたものになってしまう。立体的にならないというか、もしくは線や面にしかならないというのかな。でも間に壁があるのが前提でそれぞれの音が少しずつ重なっていったら、立体的な表現になると思う。それは即興演奏でも、歌ものでもポップスでも演劇でも同じことだなと思っていて。そういう深みの出し方ってあると思うんです」

――今のお話をうかがっていると、俳優の身体とか台詞に反応する場合と、細井さんがきっかけを作る場合と両方ある、ということなんでしょうね。

額田「こうしたいんだみたいな欲求が俳優から出る場合と、細井君がきっかけを起こす場合と、両方あっていいと思っていて。お互いが共存できるような状態にしたいんですよね」