最新技術を駆使して甦った、タチ・ワンダーランド完全デジタル・リマスター盤!

 この春、ジャック・タチ映画祭が開催され、会場は連日いっぱいになった。すでに知っている人はスクリーンで観たいと願い、未見の人はどんなものか気になり、知らなかった人は伝聞にぴぴっと反応して足を運んだ。

 この世にふつうにあること、日常的に見掛けるし出会うこと、が、ちょっと距離をもってみると、おかしく見えてしまったり、笑ってしまったりする。そして、ニンゲンってさ、とか、人生ってさ、とか自分のことも含めて、肯定したくなる。笑わせようと意図した喜劇じゃなくて、バルザックが〈人間喜劇〉と呼んだヒトと切り離せないコメディ。

 コミカルな音響によるユーモア。とぼけたような、軽妙で、一度耳にしたら忘れられない音楽(某商店街ではしばしばいろいろなシャンソンとともに、タチ映画のテーマはよくながれている)。ハイセンスの建築物や家具、ちょっとした小道具も忘れることはできない。

 こんなヒトとヒト、ヒトとモノ、ヒト/モノと音響のつながりがさまざまな動きのなか、くっついたりはなれたりして、タチ映画のおもしろさ、おかしさを生みだす。ただ笑わせようとするだけのあざとさは無縁の映画だ。

ジャック・タチ 『ジャック・タチ コンプリートBOX』 コロムビア(2014)

 映画祭の記憶も醒めやらぬうち、タチ作品のボックスが登場ときた。6つの長編と7つの短編による「コンプリート・ボックス」、ここまで徹底して収録したボックスはこれまでなかっただろう。

 情報を丹念にみると、Blue-ray BoxとDVD Box、本編の時間は変わらない。でも、特典映像の時間が、前者753分、後者328分、とけっこう違っている。なるほど、どちらも〈最新技術による修復〉が施されているところは変わらないのだが、前者には長編の別ヴァージョンもいくつか収録され、かなり厚めの解説書がつけられているところが違っている。

 あ、TOWER RECORDSで予約をすると、シールシートがついてくるという特典もあるという。わかる人にはわかる「ぼくの伯父さん」のシルエットのシール、手帖にでも、ちょっと貼っておくのはどうだろう(もったいなくて、貼れない、って? たしかに……)。