アーティストの年代記をそのディスコグラフィーを辿りながら紹介する連載。今回はフジロック登場も控えるレジェンド!

 ありとあらゆる過去が並列に提示されるようになって、古今東西のレガシーを同時に楽しめる現代だからこそ、いつの時代にもフレッシュに楽しめる作品こそが永遠の名盤! ということで、ワーナーミュージックの洋楽名盤シリーズ〈フォーエヴァー・ヤング〉が装いも新たに再始動しました。

 その第1弾として6月26日にリイシューされたのが、偉大なテクノ・ポップの先駆者として知られるクラフトワークの名盤たち。今回は74年作『Autobahn』から現時点での最新オリジナル作『Tour De France』(2003年)までの8タイトルが、2009年のリマスター音源/同年の新装アートワークをベースにラインナップされています。ここではその全作品を紹介しておきましょう! *bounce編集部


 

KRAFTWERK 『Autobahn』 Philips/Parlophone/ワーナー(1974)

前作『Ralf Und Florian』(73年)でのラルフ・ヒュッター&フローリアン・シュナイダー体制にヴォルフガング・フリューア(パーカッション)とクラウス・ローダー(電子ヴァイオリン)が加わり、実験的なクラウトロックの作法からシンセ&ドラムマシーン主体のスタイルへ移行した通算4作目。高速道路を運転する爽快さを22分かけて表現した表題曲の人気も手伝って、全英4位/全米5位という大ヒットを記録した。エンジニアのコニー・プランクと組んだ最後の作品でもある。

 

KRAFTWERK 『Radio-Activity』 Kling Klang/EMI/Parlophone/ワーナー(1975)

ラルフ&フローリアン+ヴォルフガングにカール・バルトスを加えてクラシック・ラインナップが揃った節目の一枚で、完全にエレクトロニックに移行した最初のアルバムとなる5作目。邦題は〈放射能〉ながら、放射性崩壊とラジオ活動を引っ掛けた二重のコンセプト作品でもあり、ミュージック・コンクレートの作法も導入して双方をテーマにした楽曲が収められている。前作ほどのキャッチーさはないが、後のニューウェイヴ時代にも通じる耽美な薄暗さが心地良い。

 

KRAFTWERK 『Trans-Europe Express』 Kling Klang/EMI/Parlophone/ワーナー(1977)

ヨーロッパ横断特急をテーマにした6作目。シーケンスされた硬質なリズムが延々と続く線路を表現しながらミニマルで執拗なグルーヴを敷き詰め、抑制の効いたメロディックなシンセの音色と簡素なヴォコーダー・ヴォイスも洗練された全体の雰囲気に寄与する。アフリカ・バンバータ“Planet Rock”(82年)でネタ使いされたリズミックな表題曲で知られるほか、中毒性のある“Showroom Dummies”はCMソング起用もあって79年に日本でシングル・カットされた。

 

KRAFTWERK 『The Man-Machine』 Kling Klang/EMI/Parlophone/ワーナー(1978)

コンセプトと実際のサウンドの両面で人間と機械のSF的な共生を表現した、〈人間解体〉という邦題もキャッチーな7作目。マシーン・ミュージックとしてさらにダンサブルで親しみやすい方向へ舵を切った作りは、後にエレポップやテクノ・ポップと形容されるスタイルに先鞭を付けたものでもあり、同時代のYMOから後年のニューロマ勢にまで大きな影響を与えた。“The Model”が82年になって全英1位をマークした効果でアルバムも後から全英TOP10入りしている。

 

KRAFTWERK 『Computer World』 Kling Klang/EMI/Parlophone/ワーナー(1981)

コンピューターの社会進出を受け、機械に統制される危機感をも描いたコンセプト作品。“Planet Rock”でも引用された“Numbers”を筆頭に、数年後のサイボトロンやアラビアン・プリンスらに作用するエレクトロ・ファンクの煌びやかな原型が並ぶ。当時は日本語版の“Dentaku”も出た“Pocket Calculator”、キャメルファットのリメイクも記憶に新しい“It’s More Fun To Compute”など、イメージに反してまだコンピューターが使われていないのもおもしろい。

 

KRAFTWERK 『Techno Pop』 Kling Klang(1986)

もともと『Techno Pop』として82年から制作が進められ、リリース時には『Electric Café』と題されていた9作目(2009年から原題に戻された)。初めてデジタル機材を導入してサンプリングやループを用いたテクノ的な作りになり、“Musique Non Stop”はUSクラブ・チャートで首位に輝いた。“The Telephone Call”ではカールが初めてリード歌唱を担う一方、ヴォルフガングは本作を最後に脱退する。ミックスはフランソワ・ケヴォーキアンとロン・セント・ジャーメイン。

 

KRAFTWERK 『The Mix』 Kling Klang/EMI/Parlophone/ワーナー(1991)

ツアー休止期間からステージに復帰したタイミングも重なり、ライヴ向けのリアレンジ集というアップデート機能も果たした初のリミックス・アルバム。スタジオ機材を完全デジタル移行する過程で『Autobahn』以降の代表曲を解体/再構築し、メロディーやリリックの追加変更も踏まえて、同時代の後進たちに呼応するようなダンス・トラックが揃っている。新たにフリッツ・ヒルパートが加入する一方、ここでもプログラミングで貢献したカールはリリース前に脱退した。

 

KRAFTWERK 『Tour De France』 Kling Klang/EMI/Parlophone/ワーナー(2003)

83年のシングル“Tour De France”のリメイクを下地に〈ツール・ド・フランス〉100周年を記念して作られた、21世紀最初のアルバムにして現時点での最新オリジナル作。新たにヘニング・シュミッツを加えて時代の変化を反映したテクノを聴かせ、母国ドイツでは初のチャート首位を記録した。本作を引っ提げたワールド・ツアーは初のライヴ盤『Minimum-Maximum』(2005年)も生み出すが、フローリアンはその後ライヴ活動の引退を経てグループを脱退することに。

 


クラフトワーク
ドイツのデュッセルドルフを拠点とする電子音楽ユニット。前身グループで活動を共にしていたラルフ・ヒュッターとフローリアン・シュナイダーによって70年に結成される。翌年にフィリップスからファースト・アルバム『Kraftwerk』をリリース。初期のクラウトロックから電子音楽へ移行した74年の『Autobahn』が英米でもヒットを記録し、後にテクノ・ポップと呼ばれるスタイルのオリジネイターとして世界に名を馳せていく。2021年には〈ロックの殿堂〉入り。現在はラルフとヘニング・シュミッツ、ファルク・グリーフェンハーゲン、ゲオルク・ボンガルツの4名体制で活動しており、この7月には5年ぶりの来日となる〈フジロック〉出演を控えている。