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アーティストの年代記をディスコグラフィーと共に辿る連載。今回は生誕90年を迎えた偉大なシンガーの代表作を紹介!

 アフリカン・アメリカンの自立した女性として差別や不正と闘ったアイコンであり、定期的にトリビュート盤などが話題を集めてきたニーナ・シモン。この2023年で生誕90周年を迎えた彼女ですが、その音楽はいまなお世代や性別、人種を越えて幅広いオーディエンスにインスピレーションを与え続けています。今回はフィリップス時代のアルバム全7作が高音質UHQCDで復刻され、加えて未発表ライヴ音源集と新装ベストも登場。それら全9タイトルから改めて彼女の魅力を辿ってみましょう! *bounce編集部


 

NINA SIMONE 『Nina Simone In Concert』 Philips/ユニバーサル(1964)

フィリップスへのレーベル移籍第1弾は、レギュラー・ユニットを従えてカーネギー・ホールで行った3公演をベースにしたライヴ・アルバム。“I Loves You, Porgy”や“Don’t Smoke In Bed”などそれ以前からの定番レパートリーに加え、自身もペンを交えて〈ジム・クロウ法〉に抗議した“Old Jim Crow”、人種差別に起因するミシシッピ州での殺人事件やアラバマ州教会爆破事件に反応したプロテスト・ソング“Mississippi Goddam”も披露。キャリアにおいても外せない重要な一枚だ。

 

NINA SIMONE 『Broadway-Blues-Ballads』 Philips/ユニバーサル(1964)

「王様と私」からの“Something Wonderful”や「アビシニア」の“Nobody”といったミュージカル曲やトラディショナル“See-Line Woman”などのスタンダードを中心に取り上げた、フィリップスでのスタジオ録音第1弾。ハル・ムーニーらの指揮するオーケストラが演出を施してはいるが、主役の太い歌声とピアノのディープな味わいがたまらない。アニマルズやサンタ・エスメラルダ、ジョン・レジェンド、ラナ・デル・レイらの膨大なカヴァーを生んだ名曲“Don’t Let Me Be Misunderstood”を収録。

 

NINA SIMONE 『I Put A Spell On You』 Philips/ユニバーサル(1965)

独自の洗練を加えたポピュラー寄りの作風を意欲的にまとめ上げ、全英ヒットを記録したアルバム。R&Bチャートでヒットしたスクリーミン・ジェイ・ホーキンスのカヴァー“I Put A Spell On You”をはじめ、後年のサンプリング人気も高いミュージカル曲“Feeling Good”、シャルル・アズナヴールの“Tomorrow Is My Turn”と“You’ve Got To Learn”など多彩なナンバーを取り上げている。ピアノで粋に転がすジャズのインスト“Blues On Purpose”もあってトータルで楽しめる一枚。

 

NINA SIMONE 『Pastel Blues』 Philips/ユニバーサル(1965)

〈フィーリングとしてのブルース〉をコンセプトにした、コンシャスで都会的なアルバム。ビリー・ホリデイ“Tell Me More And More And Then Some”と“Strange Fruit”を取り上げているのが象徴的なほか、ベッシー・スミスで知られるブルース・スタンダード“Nobody Knows You When You’re Down And Out”などの選曲も含めて主役のコンシャスな側面が静かに表出している。サンプリング使用でも名高い“Sinnerman”はトラディショナルをニーナ自身のアレンジで披露した名品だ。

 

NINA SIMONE 『Let It All Out』 Philips/ユニバーサル(1966)

ビリー・ホリデイの“Don’t Explain”、こちらもビリーの歌唱で有名なミュージカル「陽気な街」の“This Year’s Kisses”、さらにはボブ・ディラン“Ballad Of Hollis Brown”のカヴァー、ヴァン・マッコイ作の“For Myself”など、弾むような歌とピアノに乗せて多様な楽曲を披露した人気のアルバム。そのなかで、冒頭の“Mood Indigo”や“Love Me Or Leave Me”“Little Girl Blue”といったデビュー作『Little Girl Blue』(58年)で取り上げていた曲を多く並べ、より鮮やかに聴かせるのも印象的だ。

 

NINA SIMONE 『Wild Is The Wind』 Philips/ユニバーサル(1966)

64~65年のセッションで録られていた楽曲をコンパイルした成り立ちながら、幅広いテーマの楽曲を表情豊かなヴォーカルで束ねた傑作で、R&Bチャート12位のヒットを記録。RCA移籍後にも録音するトラディショナル“Black Is The Color Of My True Love’s Hair”、4人のアフリカン・アメリカン女性の物語を通じて社会の差別や不正義を描いた自作の“Four Women”などを収録。59年のライヴ盤でも吹き込んでいた表題曲のここでの解釈は、後のデヴィッド・ボウイ版への影響も大きいはず。

 

NINA SIMONE 『High Priestess Of Soul』 Philips/ユニバーサル(1967)

ハル・ムーニーのビッグバンドが全面バックアップしたフィリップスでの最終アルバム。ゴスペルやフォークのフィーリングで聴かせる自作の“Take Me To The Water”や“Come Ye”をはじめ、チャック・ベリー“Brown Eyed Handsome Man”やナット・アダレイ“Work Song”といったカヴァー、アリックス・ペレスのリメイクも知られる“I Hold No Grudge”など、大仰なタイトルが示唆しているように、ここからさらにソウル・ミュージックへと接近していく方向性の萌芽も薫ってくる仕上がりだ。

 

NINA SIMONE 『You’ve Got To Learn』 Verve/ユニバーサル(2023)

このタイミングで発掘された未発表ライヴ音源集。66年7月2日の〈ニューポート・ジャズ・フェスティヴァル〉でのステージが収録され、“You’ve Got To Learn”~“I Loves You, Porgy”を披露する序盤から、観客を熱狂させる様子が楽しめる。RCA移籍後の『Nina Simone Sings The Blues』(67年)で吹き込まれる“Blues For Mama”、そして“Mississippi Goddam”を経て、アンコールを求める拍手に応えた“Music For Lovers”も圧倒的。スタジオ盤とは違ったパワーが堪能できる。

 

NINA SIMONE 『Great Women Of Song』 ユニバーサル(2023)

今回のリイシュー対象になっている60年代中期のフィリップス音源を元にした最新の日本独自ベスト盤。アフリカン・アメリカンの自立した女性アイコンという側面を現代的な目線で再定義しつつ、90年代や10年代にリヴァイヴァル・ヒットしたディープな“Feeling Good”からメロウな“I Put A Spell On You”、もちろん“Don’t Let Me Be Misunderstood”やスタンダードのカヴァーなど定番や代表曲を網羅。ミシェル・ンデゲオチェロやレディシのカヴァー集とも聴き比べがしやすい選曲だろう。

 


ニーナ・シモン
1933年生まれ、ノースキャロライナ州トライオン出身。ジュリアード音楽院で学んだ後、フィラデルフィアでピアノ教室やバーで演奏活動を開始する。59年にベツレヘムからデビュー作『Little Girl Blue』を発表し、そこから“I Love You, Porgy”がR&Bチャート2位のヒットを記録。同年にコルピックスと契約し、64年にフィリップス、67年にRCAに移籍して支持を広げる。70年代に入ってからは欧州に拠点を移して晩年まで活動を続けた。2003年に逝去。