アーティストの年代記をディスコグラフィーを辿ってご紹介! 今回は伝説的なバンドのアルファ時代の作品たち!
日本のロック・シーンを形成してきたカリスマ的なバンドのひとつ、シーナ&ロケッツ。昨秋コンパイルされた『VINTAGE VIOLENCE ~鮎川誠 GUITAR WORKS』も記憶に新しいように、鮎川誠とシーナの夫妻を中心とするその存在感の大きさが、40年以上に及んだキャリアを通じて後進のさまざまなアーティストたちに多大な影響を与えてきたことは言うまでもありません。
そんな彼らがニューウェイヴ時代の空気を存分に吸い込んでスタートダッシュに成功したのが79〜82年のアルファ時代ですが、このたびはその期間にバンド名義で残した過去タイトル4枚に加え、鮎川誠とシーナそれぞれのソロ・アルバムという計6タイトルが1月29日にリイシューされることになりました。いずれも2025年最新リマスター音源による高音質Blu-spec CD2仕様での登場となります。ここではそのラインナップを改めて紹介しておきましょう! *bounce編集部
初作『#1』から7か月で届いた2作目にしてアルファ移籍作。細野晴臣がプロデュースにあたり、CMソングとしてヒットしたウォール・オブ・サウンド仕立ての代表曲“YOU MAY DREAM”を筆頭に、後にYMOも演奏した“RADIO JUNK”、坂本龍一によるインストの終曲“ロケット工場”まで、松武秀樹(プログラミング)やクリス・モスデル(作詞)も含むYMOファミリーとの化学反応がカラフルに展開される。ストゥージズ“1970”に日本語詞をつけた“オマエガホシイ”、さらにJBやキンクスのカヴァーはバンドの根源を物語るもので、サンハウスからの連続性と80年代前夜の未来感が融和して独特のニューウェイヴ感覚を醸した傑作だ。
細野に加えて高橋幸宏もプロデュースに名を連ねた3作目。高橋のペンによる“ベイビー・メイビー”、当時気鋭のコピーライターだった糸井重里が作詞したYMO作編曲による“浮かびのピーチガール”といったシングル曲は前作のテクノ・ポップな流れを汲みつつ、全体的には鮎川のアレンジ曲を軸にバンドの主体性がグッと前に出た仕上がりだ。オールディーズ風のキャッチーな名曲“キス・ミー・クイック”をキュートに聴かせる一方、“たいくつな世界”では野太い歌声をパワフルに響かせるシーナの変幻自在な歌唱に魅了される。ラモーンズのカヴァー“マイ・ボーイフレンド”やデイル・ホーキンスの古典“スージー・Q”も小気味良い。
ミッキー・カーチスがプロデュースした通算4作目ではYMO色が一気に後退し、ローリング・ストーンズのカヴァー“サティスファクション”以外はすべて鮎川が作曲(編曲はすべて鮎川が担当)。糸井重里の作詞した冒頭の“プロポーズ”から、フィル・スペクターとの仕事で知られるスティーヴ・ダグラスの豪快なサックス・プレイが響き渡る。シングル曲“ピンナップ・ベイビー・ブルース”も交えてポップな60sスタイルを聴かせたA面に対し、ライヴ方式で録音されたB面ではガレージ的な音作りでバンドの本性を剥き出しにしているのがポイント。終盤に固められた鮎川のリード・ヴォーカルによる3曲の無骨なエナジーも魅力的だ。
米A&Mから世界同時リリースされた海外デビュー作。『真空パック』と『チャンネル・グー』のレパートリーから5曲ずつが選ばれ、LAのウィザード・スタジオで英語詞のヴォーカルとギターを再録、ロビン・ジェフリー・ケーブルのプロデュースによって全曲が再ミックスされている。“YOU MAY DREAM”を筆頭に“MOONLIGHT DANCE”や“BABY MAYBE”など代表曲の英詞ヴァージョンをフレッシュに響かせるなか、冒頭の“LAZY CRAZY BLUES”だけはあえて日本語のまま披露しているのもポイントだろう。操上和美の撮影したシックなアートワークも、バンドのプリミティヴな生身を伝えるかのようで実にかっこいい。
『ピンナップ・ベイビー・ブルース』のリリースを記念して81年10月に日比谷野音で開催されたシナロケ初の野外ワンマン〈Pinup Live Show〉の実況録音から、鮎川のリード・ヴォーカル曲のみを収めて構成された初のソロ・アルバム。冒頭の“JUKEBOXER”や“DEAD GUITAR”“クレイジー・クール・キャット”といったシナロケ曲はもちろん、“どぶねずみ”や“アイ ラブ ユー”“ビールス カプセル”“ぶちこわせ”といったサンハウス時代のナンバーも惜しみなく披露するオールタイム・ベスト的な選曲が楽しい。ぶっきらぼうな独特のヴォーカルと轟音ギターを炸裂させる、ライヴ音源ならではの生々しい熱気に溢れたアルバムだ。
細野晴臣と高橋幸宏の設立した¥ENから届いた、唯一のソロ・アルバム。細野のプロデュースによって『真空パック』の延長線上にあるテクノ・ポップ世界が展開され、LDKオールスターズ(細野、高橋、鮎川誠、川嶋一秀、浅田孟、立花ハジメ、ロビン・トンプソン、矢口博康)の演奏を従えてパンキッシュな個性を発揮する様は同時代のブロンディらも連想させる。ニューウェイヴ時代ならではのレトロ・フューチャーな美意識が主役のシアトリカルな持ち味を引き出し、シーナ作詞で立花が作曲したフリーキーな“ヘルプ・ミー”など、鮎川のソロ作とは対になる持ち味にフォーカスしてシナロケ自体の多面性を表現したかのような一作だ。
シーナ&ロケッツ
78年にサンハウスを解散して上京した鮎川誠(ギター/ヴォーカル)が妻のシーナ(ヴォーカル)と共に結成したバンド。同年10月に鮎川誠&シーナロケット名義のシングル“涙のハイウェイ”でエルボンからデビューする。元サンハウスの浅田孟(ベース)と川嶋一秀(ドラムス)を迎えた編成で79年にアルファ移籍作『真空パック』をリリース。シングル“YOU MAY DREAM”のヒットでブレイクを果たす。84年にレーベルを移籍して以降も、2014年の『ROKKET RIDE』までコンスタントにリリースとライヴ活動を重ねた。2015年にシーナが、2023年に鮎川が逝去。