INTERVIEW

HAIIRO DE ROSSI 『KING OF CONSCIOUS』 Part.1

状況や環境の予期せぬ変化、長い苦闘と葛藤の日々——大いなるブルーの果てに男は次のブルーをめざす。優しく研ぎ澄まされた〈コンシャス〉な言葉であなたに語りかける、誇り高きカムバック・アルバム!!

HAIIRO DE ROSSI 『KING OF CONSCIOUS』 Part.1

自分をレペゼンできるタイトル

「音楽をやめようと思ったことももちろんありましたけど、音楽が離してくれなかった。これしかないとかじゃなく、これしかできないんですよ、結局」。

 鬱病とパニック障害の発症による長期休養に、みずから先頭に立って結成したHOOLIGANZからの脱退と、思いもかけぬこの3年を過ごしたHAIIRO DE ROSSI。一度は音楽そのものから遠ざかっていた彼をそこに引き戻したのもまた、音楽の力だった。毎日のように聴くほど「一方的に癒されてた」という安藤裕子の『JAPANESE POP』、これまでも常々聴いてきた椎名林檎……音楽に限らず日本人が生み出すさまざまなものに触れ、誇りを取り戻した彼を、ふたたびラップへと駆り立てたのは、来日ステージの舞台裏で直接話せる機会を得たヤシーン・ベイモス・デフ)やタリブ・クウェリの存在だった。その2人のシャウトで幕を開ける5枚目のアルバム『KING OF CONSCIOUS』は、彼がもっとも信頼を置くプロデューサーだというHIMUKIが全トラックを制作した一作。制作の始まりとなった般若共演の先行カット"Ready To Die"は、みずからを鼓舞するうえで大きかったとHAIIROは言う。

HAIIRO DE ROSSI KING OF CONSCIOUS forte(2014)

「曲でも〈これ乗り切れたら行ける気がする〉って歌ってるんですけど、それはホントに当時思ったことで。そこまでの期間に自分と向き合う作業はすごくしてたんで、ここで般若っていう相手とガチで向き合って、自分のキャパシティーを思いっきりぶつけられたらなんとか行けるっていうのがあった。般若さんからは語らずとも伝わってきたところが強くて、変な話ですけどこの人を尊敬しててよかったと思いました」。

 一般に、〈コンシャス〉なラップとは、ある種の問題意識を伴った政治的/社会的な意識の高いラップを指す。アジアをテーマに尖閣問題などに触れた“We're The Same Asian”や、東日本大震災後のチャリティー曲“Pray For Japan”など、過去に彼が残した楽曲には、まさにそうした側面を持つものもあった。だが、先のヤシーン・ベイやタリブ・クウェリ、そしてコモンらに触発されつつも、いまのHAIIROが描くコンシャス・ラップ像はそれとはやや別にあるようだ。アルバム・タイトルに込めた〈コンシャス・ラッパー〉たる意味合いを、彼はあるエピソードと共に語る。

【参考動画】HAIIRO DE ROSSIの2011年の楽曲“Pray For Japan”

 

「以前BACHLOGICさんのスタジオにお邪魔したことがあって、その時に会ってすぐ〈HAIIRO君、キミはリリックだよ〉って言われてその後ずっと考えてたんですけど、そこで自分をレペゼンできるタイトルはこれだなって。コンシャス・ラップの〈コンシャス〉は、政治的な意味合いで言われることが普通ですけど、否定も肯定もしない美学というか、それも一つの意識的(=conscious)な動きだと思う。言わなくてもいいことってあるじゃないですか。特にいいことをした時に、それを自分から〈こんなことしたんだ〉って言う必要はないですよね。その意味で、いまの僕には好きなものもたくさんあるし、無関心なことには無関心で、そこに負の感情もない」。

 

俺ぐらい落ちても大丈夫

 アニメ映画「風立ちぬ」にインスパイアされた“風たち”は、琴をサンプリングした軽快なトラックに、人との繋がりを音楽で広い世界へと繋げる思いを託した曲。ここではShing02との初共演が実現している。

「Shing02さんをはじめ、フィーチャリングはこのトラックでこのコンセプトでやるんだったらこの人しか浮かばなかったっていう人たちばっかりなんですけど、“風たち”はフッとこのタイトルが降りてきた。『風立ちぬ』にはクリエイティヴな部分での心の葛藤や矛盾がすごく表れてて、すごく人間的だなっていう感想を覚えたんですけど、タイトルから〈ぬ〉を抜いた一文字分の空白で何を想像させるかをコンセプトにしました」。

 歯に衣着せぬ言葉でシーンに向けて〈Good Bye Kidz Hip Hop〉と叫ぶことも厭わなかったかつてのハードな物言いも、狂おしいばかりのギター・サンプルが躍る道(TAO)との“What's Up Kidz?!”程度にとどめ、いわく「やっと社会と対等になった」目線が多く注がれた曲の数々は温かい。それらは自身の代表作に数えるサード・アルバム『forte』が纏っていた死の影を振り払い、命の重み、魂の重みを吹き込むべくHAIIROが向かったものである。田我流に加え、HAIIROが太鼓判を押す女性シンガーのTSUNEIを客演に抜擢したソウルフルな“傘も差さずに”然り、流麗なストリングスを敷いたオケに己のスタンスをだぶらせる“インディーズ”然り、大きな苦難をくぐり抜けた彼はいま、歌う――〈俺は音に命を救われた/今言い聞かす俺が救わねば〉(“インディーズ”)と。その思いは、初回限定盤に付属されるドキュメンタリーDVD(闘病生活など彼の私生活を追ったもの)と共により身をもって迫ってくることだろう。

「悩んでる人や、いまの社会が生き辛いなと思ってる人はたくさんいると思うけど、俺ぐらい落ちても大丈夫なんだっていう保険みたいに捉えられると思うんですよね、DVDを観てもらえれば。それで心の支えになってくれたらいい」。

 日本語ラップという括り以上により大きく音楽を捉える意識が強くなったと語る彼にとって、今作は「ヒップホップに対してのけじめ」をつける一作でもある。そして、その音楽はさらに次の次元へ。

「ヒップホップへの愛は消えることはないし、ずっと持ち続けるけど、ポップでもJ-Popでもなく、良質な音楽っていう面がこれから先の僕の音楽ではより強くなる。去年のベストはカニエの『Yeezus』だったけど、僕ん中で今年は全世界通じて(椎名林檎の)『日出処』。あれを目標にしてもいいんじゃねえかなってぐらい思ってるし、安易に歌ったりすることはないけど、日々探究しながらラップに限らず適切なアプローチをしていきます」。

【参考動画】椎名林檎の2014年作『日出処』収録曲“ありきたりな女”

 

▼『KING OF CONSCIOUS』に参加したアーティストの作品の一部

左から、ブラック・スターの98年作『Mos Def & Talib Kweli Are Black Star』(Rawkus)、般若の2014年作『#バースデー』(昭和レコード)、Shing02+DJ $HINの2013年作『1200 WAYS』(Turntable Troopers)、田我流の2012年作『B級映画のように2』(Mary Joy)
※ジャケットをクリックするとTOWER RECORDS ONLINEにジャンプ

 

▼関連作品

左から、安藤裕子の2010年作『JAPANESE POP』(cutting edge)、椎名林檎の2014年作『日出処』(ユニバーサル)
※ジャケットをクリックするとTOWER RECORDS ONLINEにジャンプ

 

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