状況や環境の予期せぬ変化、長い苦闘と葛藤の日々――大いなるブルーの果てに男は次のブルーをめざす。優しく研ぎ澄まされた〈コンシャス〉な言葉であなたに語りかける、誇り高きカムバック・アルバム!!
自分をレペゼンできるタイトル
「音楽をやめようと思ったことももちろんありましたけど、音楽が離してくれなかった。これしかないとかじゃなく、これしかできないんですよ、結局」。
鬱病とパニック障害の発症による長期休養に、みずから先頭に立って結成したHOOLIGANZからの脱退と、思いもかけぬこの3年を過ごしたHAIIRO DE ROSSI。一度は音楽そのものから遠ざかっていた彼をそこに引き戻したのもまた、音楽の力だった。毎日のように聴くほど「一方的に癒されてた」という安藤裕子の『JAPANESE POP』、これまでも常々聴いてきた椎名林檎……音楽に限らず日本人が生み出すさまざまなものに触れ、誇りを取り戻した彼を、ふたたびラップへと駆り立てたのは、来日ステージの舞台裏で直接話せる機会を得たヤシーン・ベイ(モス・デフ)やタリブ・クウェリの存在だった。その2人のシャウトで幕を開ける5枚目のアルバム『KING OF CONSCIOUS』は、彼がもっとも信頼を置くプロデューサーだというHIMUKIが全トラックを制作した一作。制作の始まりとなった般若共演の先行カット"Ready To Die"は、みずからを鼓舞するうえで大きかったとHAIIROは言う。
「曲でも〈これ乗り切れたら行ける気がする〉って歌ってるんですけど、それはホントに当時思ったことで。そこまでの期間に自分と向き合う作業はすごくしてたんで、ここで般若っていう相手とガチで向き合って、自分のキャパシティーを思いっきりぶつけられたらなんとか行けるっていうのがあった。般若さんからは語らずとも伝わってきたところが強くて、変な話ですけどこの人を尊敬しててよかったと思いました」。
一般に、〈コンシャス〉なラップとは、ある種の問題意識を伴った政治的/社会的な意識の高いラップを指す。アジアをテーマに尖閣問題などに触れた“We’re The Same Asian”や、東日本大震災後のチャリティー曲“Pray For Japan”など、過去に彼が残した楽曲には、まさにそうした側面を持つものもあった。だが、先のヤシーン・ベイやタリブ・クウェリ、そしてコモンらに触発されつつも、いまのHAIIROが描くコンシャス・ラップ像はそれとはやや別にあるようだ。アルバム・タイトルに込めた〈コンシャス・ラッパー〉たる意味合いを、彼はあるエピソードと共に語る。
「以前BACHLOGICさんのスタジオにお邪魔したことがあって、その時に会ってすぐ〈HAIIRO君、キミはリリックだよ〉って言われてその後ずっと考えてたんですけど、そこで自分をレペゼンできるタイトルはこれだなって。コンシャス・ラップの〈コンシャス〉は、政治的な意味合いで言われることが普通ですけど、否定も肯定もしない美学というか、それも一つの意識的(=conscious)な動きだと思う。言わなくてもいいことってあるじゃないですか。特にいいことをした時に、それを自分から〈こんなことしたんだ〉って言う必要はないですよね。その意味で、いまの僕には好きなものもたくさんあるし、無関心なことには無関心で、そこに負の感情もない」。