オーディオメーカーがつくった、音楽や音を楽しむための〈耳栓〉
現代の都市生活はいつも音に溢れている。交通機関の走行音、カフェや商業施設の喧噪、デジタルディスプレイの広告動画と一緒に再生される音声など私たちは毎日、膨大な音のシャワーを浴び続けている。こうした騒音から逃れるために、イヤホンやヘッドホンで好きな音楽を聴き、周囲のノイズを別の音でマスクすることも良策のひとつだ。ただ一方で、絶え間なく音楽を流し続けることは聴覚への負担、あるいは情報過多による脳の疲労を考えると、常時採るべき解決策とは言えない。いま注目を集めているのが〈イヤープラグ〉、いわゆる耳栓である。
興味深いことに今、ゼンハイザーにEtymotic、ビクター、そしてfinalなど〈オーディオメーカーがつくったイヤープラグ〉に良質なプロダクトが増えている。音楽を聴いて楽しむためのオーディオを作り続けてきた各社が、音を遮断するアイテムにおいても面白い提案をしている。中でも、日本の老舗オーディオブランドであるオーディオテクニカが発表したイヤープラグ〈AT-ERP5〉および〈AT-ERP3〉がとてもユニークだ。
これらの製品はユーザーのまわりにある音をむやみに消したり、遮断することだけを目的としていない。〈適切な音量にコントロールする〉ことにコンセプトの主眼を置いている。一般的なウレタン製の耳栓は、高音域を不自然にカットしてしまい、こもったような聞こえ方になることが多い。かたや音響機器メーカーが設計するイヤープラグは、音の帯域バランスを極力保ったまま、全体のボリュームだけを絞るような自然な減衰特性に整えている。
オーディオテクニカのイヤープラグ〈AT-ERP5〉は、ライブや音楽フェスといった大音量環境での使用を想定して設計されているところが面白い。夏・秋には屋外フェスやクラブイベントなど、巨大なスピーカーから放たれる大音量のサウンドを浴びる機会が増える。音楽を全身で浴びる体験はとても心地よいものだが、長時間にわたって過度な音圧に耳をさらせば、聴覚細胞は確実にダメージを受ける。近年は世界的に若年性難聴のリスクに警鐘が鳴らされている。その主な原因として、大音量のまま生音や、オーディオ機器でサウンドを聴き続けることが、耳に負担をかけることが挙げられている。
AT-ERP5は2層のフィルタリング構造を採用しており、音楽のディテールやライブの臨場感を損なうことなく、耳に負担をかけない安全なレベルまで音量を下げる。音楽を気持ちよく楽しむためにこそ、耳を守る。極めて合理的な選択肢だと思う。
スタンダードモデルの〈AT-ERP3〉は、日常生活におけるノイズケアに焦点を当てている。オフィスでの休憩時間や、通勤列車の車内など、不快な環境音を軽減することで、パーソナルな静寂空間を作り出せる。筆者も先日、飛行機に乗りながら本機を試した。ノイズキャンセリングイヤホンのように、電気的に環境ノイズを強く抑え込むことはしない代わりに、とてもナチュラルで心地よい静寂に守られる感覚が良かった。呼吸に意識を向けるマインドフルネスのエクササイズや、ジムでトレーニングに勤しむ際、集中力を高めるためのアイテムとしても有効だと思う。柔らかいシリコン素材で作られているので、長時間装着していても耳が痛くなりにくいことも特筆しておく。
昨今のオーディオ機器の役割は〈いい音を再生すること〉に加えて、〈人と音との関わり方を最適化すること〉にも拡張されつつある。オーディオテクニカのイヤープラグはその変化を象徴している。価格も数千円と手頃だ。日々の様々な生活ノイズに疲れている方や、耳を大事に守りながら、大好きな音楽を長く楽しみたい方に、ぜひ試してほしい。心地よい〈静けさ〉が得られると、次に聴く音楽もより鮮やかに響くはずだ。


山本敦(やまもと・あつし)
オーディオ・ビジュアル専門誌の編集・記者職を経て2013年からフリーランスとして活動。ハイレゾやワイヤレスなど最新技術に対応するモバイル端末やコンシューマーオーディオの音質レビュー、使いこなしに関連する記事を中心に執筆。得意の外国語で海外有名ブランドの開発者インタヴューも数多くこなす。