CD世代のミュージシャン/ライターであるKotetsu Shoichiroによる連載〈CD再生委員会〉。今回のテーマはCD-Rです。ある世代にとってはもはや懐かしのアイテムと化した時代の遺物ですが、実は今、再注目されているメディアなのだとか……? *Mikiki編集部
昔の人はどうやってCDを焼いてたの?
戦争を知らない子どもたち、もっちゅりんしか知らない子どもたちたるZ世代の皆様におかれましては、〈CDに書き込む〉〈CDを焼く〉というナゾの言葉を聞いたことがありますでしょうか? CDを? 焼く? おせんべいみたいに?

〈いや、そんなのさすがに皆知ってるでしょ〉と思われたそこのご同輩。すでに2018年の時点で、アメリカではボルチモアに住むティーンネイジャーのアリッサさん(誰?)が〈きょう、家電量販店の会話で聞いたんだけど「CDを焼く」って何? 昔の人は、どうやってCDを焼いていたの?〉とツイートしたことが〈速報:我々はもう若くない〉というサブタイトルとともに、ニュースサイトで取り上げられるほど話題になったのですぞ。
日進月歩のデジタル環境においては〈写メ〉同様、あらゆる言葉は古くなり、失われ、通じなくなっていくのです。
ディスクをレーザーで焼き、データを定着させるメディア
ということで、今回はCD-Rの話でございます。CD-RのRは〈Recordable〉つまり〈記録することができる〉という名の通り、一般的に売られている音楽CDやゲームソフトのディスクとは違い、買った人間が、自由にデータを記録すること=書き込むことができるメディアです。
〈空のディスク〉〈ブランクメディア〉といった言い方もされますね。今でも、家電量販店やドン・キホーテなどで手に入りますし、タワーレコードでも買えます。書き込んだCDは、普通のCDと同じく、プレイヤーで再生できます。


この〈データを書き込む〉ことを〈焼く〉とも言います。これは、CD-Rの記録層に、再生時よりもはるかに強いレーザーで照射し、色素層を局所的に加熱することでデータを書き込むことからきています。つまり、本当にディスクをレーザーで焼いてるのですね。英語圏でも〈Burn a CD〉という言い方がなされますが、日本においてはかつて写真の現像も〈焼く〉といった表現があったように、〈焼く〉 という言葉にはデータを物理的に定着させるイメージとして通ずる素地があったとも言えましょう。

医療用など専門性の高かった黎明期
そもそもCD-Rは1988年、電子部品メーカーの太陽誘電で開発されました。中心となったのは同社所属の研究者・浜田恵美子氏です。
80年代当時、書き込み可能な光ディスクそのものは、すでに存在していました。しかし、それらは専用機器でしか再生できず、文書アーカイブや医療データの保存などに用いられる、一般ユーザーには縁の薄いテクノロジーでした。
そこで浜田氏らが目指したのが、〈書き込みができて、なおかつ既存のCDプレーヤーで再生できるディスク〉です。CD-Rの画期的な点は、単に記録できることではなく、その高い互換性にあったのですね。
1989年から1995年ごろにかけて、CD-Rはまず、業務用途を中心に普及し始めました。例えばラジオ局のジングルや店内放送、音楽業界のプロモーション用音源などなど。ソフトウェア会社や音楽業界では活用が進んでいたものの、書き込みドライブは数十万円以上と高価で、一般家庭にはまだ手の届かない存在でした。
CD-R自体の価格も、米国では1枚で約12ドル、日本では3,000円ほどとかなり高価だったとか(日本においては、デジタルコピーを巡る著作権問題との兼ね合いから、高額にならざるを得なかったとも言われています)。音楽ファンの間では、まだまだカセットテープが現役の時代ですね。
音楽生活を便利にする日用品へ
CD-Rが身近になるのは、90年代後半からです。1995年はかのWindows 95が登場した年ですが、HP社のCD-Rドライブ〈HP 4020i〉もまた〈初めて1,000ドルを切った民生向けCD-Rドライブ〉として話題になりました。以降、数年をかけて、低価格な書き込みドライブや、CD-R対応パソコンが普及していきます。

出典:BESTDO楽天市場店
高価だったCD-Rも、廉価な台湾メーカーの製品の参入もあり、1998年ごろには1枚300円くらいまでに値下がりしました。業務用の特殊なメディアから、音楽ファンやパソコンユーザーの日用品へと変わっていったのです。
かくしてユーザーは、自由に市販のCDをコピーしたり、自ら選曲したお気に入りのミックスCDを作って車で流したり……と、CD-Rによって音楽生活がより便利になったものでした。
オリジナルの選曲テープを作るのは、カセットテープ、MDでも可能でした。しかしカセットテープでは、50分の音源をコピーするのに50分必要でしたが、CD-Rは数分でコピーすることが可能でした。MDもまた、CDプレイヤーほど誰もが持っていた訳ではありません。CD-Rはその利便性ゆえ、人から人へと送り合うアイテムとして定着していました。曲名などをメモするインデックスカードも、便箋のようで、人に渡すCD-Rには細かく情報を書いたものです。

ちなみに、CDに音楽を書き込む際には、Windows Media PlayerやiTunesといった標準ソフトでも可能ですが、どのライティングソフトを使うべきか? 何倍速で焼くのがベストか? メーカーごとのCD-Rの特性は?といった、オーディオマニアの議論も盛んでした。メディアの色素やドライブとの相性、読み取りエラーまで含めて音質を論じるユーザーもおり、このあたりを検証し始めるとあまりにもディープなので、今回は(永遠に)端折ります!
自主制作盤の評判が口コミで広まり、レーベル契約!
かくして、90年代末~2000年代にかけて、完全に定着したCD-Rというフォーマット。地下で活動するアーティストにとっても、その影響は少なくありませんでした。インディーなバンドやシンガーソングライター、ラッパーの多くが、デモ音源やライブ録音をCD-Rに焼き、ライブハウスの物販や、手売りで販売するようになります。関西ゼロ世代や、あるいはひと昔前の東京インディー青年たちが、キンコーズで印刷したジャケットを家でCD-Rに差し込み、ダンボールで作った値札とともにライブ会場で並べ、売り上げはそのままその日のビール代へと消えていく。そんな光景が、全国のライブハウスで広がります。
かの相対性理論の名を一躍広めた最初のアルバム『シフォン主義』(2007年)も当初はCD-Rでの販売でしたし、降神のファーストアルバム『降神』(2003年)もCD-Rでのリリースが評判を呼び、後に正規プレスに。Taiko Super Kicks『霊感』(2014年)も最初は自主CD-R。王舟は『賛成』『Thailand』(どちらも2010年)というCD-Rリリースを2018年にカセットで復刻。自主制作したCD-Rが口コミで評判に→からのレーベル契約!というコースは、バンドのサクセスストーリーとして、当時は一般的なものでした。
大森靖子『パン食ってKill』(2009年)および『黒歴史再録』(2013年)、下山(現GEZAN)『一時的な腸』(2011年)、幾田りら『15の想い』(2015年)などなど、今も活躍するアーティストも、キャリアの初期には、CD-Rでリリースしていた音源も多数あり。マニア心をくすぐりますが、オークションサイトに出ているものでも、そもそもCD-Rであるため、オリジナルなのかコピーなのかの判断は難しいものも多く……アーティストを応援するのであれば、現行の最新作を買うのがベターでしょう。
そうそう、アルバム購入者向けのボーナスCD-R、なんていうのもありました。というか、これは今も〈特典として◯◯◯のデモVer.を収録したタワレコ限定CD-Rが付いてくる!〉なんていう文言をみますよね。ライセンス上、大っぴらに販売するのが難しい、DJによるミックスCDなんかも、CD-Rで地下的にリリースされたものが無数にありますね。

出典:OTOTOY
プレス工場に発注するほどの予算や枚数を必要とせず、思い立ったらすぐ作品として世に出せるCD-Rは、インディペンデントな音楽活動を支える重要なメディアだったのです。
デジタル化とPCのドライブ消滅で一気に衰退
しかし、CDの衰退とともに、CD-Rの輝きも徐々に色褪せてゆきます。iPodやデジタルオーディオプレーヤーの登場によって、そもそもソフトを媒介しない、デジタルで完結する音楽の聴き方は2000年代にかけて急速に広まります。また、2008年にはSoundCloudやBandcampが登場。これらのサービスは、インディペンデントアーティストにとって、CD-Rが担っていた〈正規リリースではない、単発作品の発表の場〉という役割を引き継ぐ新たな受け皿として、急速に普及していきます。
また、象徴的なのは、2008年に発表されたMacBook Air。光学ドライブを内蔵しない、つまりCDを読むことも焼くことも基本的には想定していないノートパソコンの登場です。

出典:Macworld San Francisco 2008-The MacBook Air Intro (Pt. 1)
この傾向に他のメーカーも追随し、2015~2016年ごろには、光学ドライブ非内蔵がラップトップにおいては主流化しました。もちろんこの傾向は現在まで続いています。冒頭のアリッサさんの発言は、ギリギリ過渡期だったからこそニュースバリューがあったと言えましょう。もはや〈若者はCD-Rを知らない!〉なんていうのは、令和の2ちゃんねると化しつつある中年用SNSたるXでも、自明のこと過ぎて、大してバズらないトピックでしょう。
インディーアーティストは今こそCDを手売りしよう!
ではCD-Rは役目を終えたのか? そんなこともないでしょう。ロサンゼルス在住のヒップホップ系プロデューサーで、トラックメイカー界隈ではインフルエンサー的な存在として人気のサラ・ジ・イルストゥルメンタリスト(Sarah, The Illstrumentalist)が投稿している、こちらのビデオ。
〈インディーアーティストのためのCDの焼き方。2026年にCDを売る方法って?〉と題されたこのビデオにてサラ氏は、CD用に音源をマスタリングし、それを外付け光学ドライブでCD-Rに焼き、ジャケットと盤面を印刷して裁断し、そしてQRコードを封入してスマホでも聴けるように……といった、まさに2026年に、CD-R作品を自宅で作るためのノウハウをレクチャーしてくれています。

出典:Independent Artist Guide to Burning CDs at Home 💿 Selling CDs in 2026?
動画の後半では、マスター・Pやニプシー・ハッスルといった有名アーティストが、かつてはCDを自主制作して自分で売り込んでいたというエピソードを引用し、インディペンデントアーティストに「今こそ、CDを手売りしよう!」と呼びかけています。レコードやカセットでもなくCD、というセレクトを推してる訳ですね。
駆け足で振り返ったCD-Rの歴史、いかがでしたでしょうか? 振り返ってみると、カセットよりもずっと早くコピーすることができる、市販のCDと同様に再生し聴くことができる、といった利便性・手軽さこそCD-Rの長所だったことが、改めてわかります。それでいて、あたかも手紙を受け渡しするような手触りも、そこにはあったのではないかと思います。まるで白いフリスビーをパスするように……CD-Rの時代がふたたびRevival、Rebirth、Rebootすることを願ってここに筆を置くのでア~ル……。
参考文献
https://www.theguardian.com/music/musicblog/2009/may/27/cdr-culture-ariel-pink
https://tapeop.com/interviews/14/cd-rs
https://k.asiankung-fu.com/s/n2/diary/detail/64011?ima=3619&cd=akg_gotch
https://www.buzzfeednews.com/article/tanyachen/gen-z-teen-is-giving-millennials-an-existential-crisis-over
https://www.forbes.com/sites/natalierobehmed/2013/11/06/rapper-nipsey-hussle-and-the-100-mixtape/
RELEASE INFORMATION
Kotetsu Shoichiro “She Call It Acieeed”

レーベル:HIHATT
リリース日:2026年5月1日(金)
Bandcamp:https://hihattjp.bandcamp.com/album/she-call-it-acieeed
配信各社リンク:https://orcd.co/scia
TRACKLIST
1. She Call It Acieeed
2. She Call It Acieeed (QPLO Remix)
3. She Call It Acieeed (ACIDA MANNERS Remix)
PROFILE: Kotetsu Shoichiro
ミュージシャン(トラックメイカー/DJ)。90年生まれ、香川県出身。ダンスミュージック全般を手がけ、ラッパーやゲーム音楽、CMなどに楽曲提供の実績多数。2021年にはラッパー・T-STONEへの提供曲“Let’s Get Eat”がBillboard JAPANのTikTok Weekly Top 20で1位を獲得。また2022年にはtofubeatsのアルバム『REFLECTION』収録の“Vibration feat. Kotetsu Shoichiro”へラップで客演し話題を呼んだ。ライター/インタビュアーとしてはミュージック・マガジン、Quick Japan、CINRA、関西ソーカルなど数々の媒体に寄稿。ほか、さとうもか“Lukewarm”“Loop”をはじめ他アーティストのMVなど映像/アニメーションの編集も手がけるなどジャンル/形式に囚われない幅広いスタイルで活動をおこなっている。
オフィシャルサイト:https://kotetsu-shoichiro.com/
X:https://x.com/y0kotetsu
Instagram:https://www.instagram.com/y0kotetsu/
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