©W. Patrick Hinely/ECM Records

サンベア・コンサートから50年

 キース・ジャレットが2016年、欧州で行ったピアノソロ公演の記録がすべて出揃った。7月3日のブダペストから6日にボルドーを経て9日がウィーン、そして12日がこのローマ公演、最終公演は16日、ECMの本社のあるミュンヘンだった。欧州公演に先駆けて米国でも3公演が行われたようだが、こちらは今の所、音源としては未発表のままだ。イタリアでの4公演を収めた『トワイライト・アングルス』(96)や日本での5公演をまるまる記録した『サンベア・コンサート』(76)のような規模で未編集のまま発売するのは久しぶりのことではないかと思う。

KEITH JARRETT 『Roma』 ECM/ユニバーサル(2026)

 今回出揃った2016年の欧州公演を日付ごとに辿ってみると公演全体をあるひとつのナラティブによって構成しようとするキースの意図のようなものを感じる。どの公演も同じように開き、同じように展開して、同じように閉じていく。調性感を喪失して彷徨するかのような冒頭のソロ。そしてそれがまるでプロコフィエフのソナタのようなオスティナートによって展開していく。これまでにあまりなかった語り口はすべての公演で徹底される。『レディアンス』(02)の大阪公演の冒頭や『カーネギー・ホール・コンサート』(06)の冒頭、同年ヴェネチアで収録された『ラフィニーチェ』で聴いた響きを思い起す。92年に発表したショスタコーヴィチの『24の前奏曲とフーガ』がもたらした変化ではないかと思う。それは音の並びそのものではなく、音の運動に関わる身体的な変化ではないだろうか。

 2000年代に入ると短いソロでコンサートを構成するようになった。この欧州公演も同じだ。これまでミュンヘンの出来がすごいと感じていたが、このローマも非常に完成度が高い。4公演の中では特殊だと感じたのはボルドーだった。ピアノとマイクの距離が近い。ピアノとキースの会話のようなものが聴こえてくる。この公演前のブダペストの後でキースは何を感じていたいのだろうか。公演は一回限りの体験で内面化されて聴き手それぞれの記憶となるが、音源は繰り返し没入できる外付けの記録だ。幾度となく、繰り返しそれぞれの録音を聴き返しては、キースならではの即興演奏の技法を徹底的に味わってみたい。