96年の休養後、キースが再稼働をみせるトリオ・ライヴ

 日本で『Tokyo '96』が録音された96年のソロツアーを契機に最初の休養に入ったキース。本作は『Whisper Not』(99年7月5日)に先立つ98年11月14日に録音された復帰後初のトリオでのライヴ音源だ。60年代半ばから30年近く走り続けて来たキースに50歳を迎える時期休養は結果的に見てマイナスではなかった。トリオ、ソロ、クラシック系のアルバムという3つの流れで活動を継続してきた彼にとって、トリオは大きな力を与えてくれるフォーマットであり、ほかの二人の力によってキースが再稼働するのがはっきりわかる。70年前後のアヴァンギャルドな時代のキースが持つエネルギー感が時々顔を出す。ヘイデンとのデュオ作品にみる内省的な味わいとは違う陽性な世界が輝きだす。

KEITH JARRETT After The Fall ECM/ユニバーサル(2018)

 アルバムは“The Masquerade Is Over”で淡々と始まる。15分に渡るこの曲で〈仮面を取り去ったキース〉が進撃を始める。5分を過ぎたあたりでギアはオーバートップに入り、キースにGをかけ始める。唸り声がアップするのがはっきりわかるだろう。そして、“Old Folks”に耳を傾けてみればキースが再び山を登り始めたのが分かるだろう。中間部で畳み掛けるように即興が即興を生んでいく様はまさにキースの真骨頂と言ってもいい。この3分ほどのソロのバックでのデジョネット、ピーコックの〈興奮度〉がキースの音楽の温度上昇を表している。熱いキースが聴ける。これは凄い! 拍手が沸き起こる。“Santa Claus Is Coming To Town”にも注目だ。ビル・エヴァンスはソロとトリオで記録上4回もこの曲を録音しているが、今年からはキース・ファンにとってクリスマスは楽しい季節になる。しかも、一切手抜きなしのアグレッシブなクリスマスだ。やってくれた。今年からは〈ジャズでクリスマス〉と言われたら躊躇なく本盤を推薦だ。そして、止めは“When I Fall In Love”。息が詰まるほど切ないメロディが流れ出る。この曲のメランコリックな情緒が最高に引出される。美しいピアノが好きだ!