ジャズピアニストの西山瞳さんによるメタル連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。今回はリリース40周年を迎えたボン・ジョヴィの3rdアルバム『ワイルド・イン・ザ・ストリーツ(Slippery When Wet)』について。ある現代最高峰ジャズピアニストとの対比で考える、という西山さんらしいとんでもない論理で考察をしたようで……。

なお上掲のジャケットは日本盤のものですが、性差別的だとされることを懸念したレコード会社、ピンク色の縁取りを気に入らなかったジョン・ボン・ジョヴィらの意見によって変更されたオリジナルのアートワークでもあります。 *Mikiki編集部

★連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉の記事一覧はこちら

BON JOVI 『Slippery When Wet』 Mercury(1986)

 

今年も中野駅前大盆踊り大会は、〈盆ジョヴィ〉で盛り上がったようです。

〈盆ジョヴィ〉については、2022年に一度書きました。

このボン・ジョヴィの代表曲“Livin’ On A Prayer”が収録されているアルバム『Slippery When Wet』は、1986年8月25日に日本リリース。この夏でなんと40周年です。

40年後に日本で盆踊りソングとして定着しているとは、誰が想像したでしょうか。

当時の邦題は『ワイルド・イン・ザ・ストリーツ』、私もそちらで馴染みがあるので、以下『ワイルド・イン・ザ・ストリーツ』で書きますね。

 

今月の連載は、編集部から40周年のこのアルバムについてどうでしょう?と提案され、当然私も中高生の頃から幾度となく聴き込んでいるし、「いいですよー」と返答。以前ディスクガイドにこのアルバムについて寄稿したことがありましたが、その時は200字もなかったので、まだまだ書けることはあるだろうと思いました。

しかし、いざ書こうとしてアルバムを何周か聴くと、やばい。何も思いつかない。

以前書いた、〈徹頭徹尾歩けるテンポ、愚直なまでの8ビート、そしてサビには大合唱。フィジカルに働きかける、ボン・ジョヴィ的クリシェの完成形〉にこれ以上、付け加えることがない。

だって、このアルバムって、それだけで充分じゃないですか? シンプルで楽しいんだから、これでいいんだよ!と開き直りたいところですが、これは困った。

 

ということで、視点を変えて〈ボン・ジョヴィの『ワイルド・イン・ザ・ストリーツ』の反対は何だろう?〉と考えてみることに。

あれこれ考えた結果、〈ボン・ジョヴィの反対は、キース・ジャレット〉と思い至り、キース・ジャレットと対比して考えることにしました。

全然違うアルバムとアーティスト、並べて交互に聴いてみることで、浮き出てくるものがあるのだろうか……?

ありました。

ここから〈キース・ジャレットと対比して考えた、『ワイルド・イン・ザ・ストリーツ』〉ということで、話を進めていきたいと思います。片やアーティスト、片やアルバムと非対称ではありますが、思いついちゃったのでお許しを。

 

ボン・ジョヴィについては、皆様ご存知もご存知でしょうが、若いロックファンにはどう認識されているんでしょうか。

80年代後半〜90年代、日本の洋楽ロックシーンはボン・ジョヴィだらけでしたよ。私も高校生の時、『Cross Road』の“Always”などでキュンキュンしていました。

BON JOVI 『Cross Road』 Mercury(1994)

過去回もご覧下さい。

対してキース・ジャレットは、現代最高峰のジャズピアニスト。

神がかった即興演奏、その崇高なまでの純度の高さと閃きは、まさに今ここで生命が躍動する喜びと緊張に満ちています。聴いたことのない方は、『My Song』、『Standards, Vol. 1』から、ぜひ聴いて下さい。個人的に好きなのは、『Personal Mountains』、『Still Live』です。魂のレベルが違う。

KEITH JARRETT QUARTET 『My Song』 ECM(1978)

KEITH JARRETT TRIO 『Standards, Vol.1』 ECM(1983)

KEITH JARRETT QUARTET 『Personal Mountains』 ECM(1989)

KEITH JARRETT TRIO 『Still Live』 ECM(1988)

 

まず、なぜ直感的にキースを反対に置いたかを考えると、『ワイルド・イン・ザ・ストリーツ』は圧倒的資本主義=マーケティングによる作品、キース・ジャレットは孤高の天才芸術家による瞬間芸術という認識があったからだと思います。

『ワイルド・イン・ザ・ストリーツ』は、マーケティングの元に作られたアルバムということは非常に有名な話です。30曲のデモ音源を作り、沢山のティーンエイジャーに試聴させて、その中から人気の曲を選び、あの完璧な10曲のラインナップに至った。

第1作『夜明けのランナウェイ(Bon Jovi)』、第2作『7800° Fahrenheit』に比べ、10曲の構造が一定しているのは、当時の若者が求める音が反映された結果なんですね。

BON JOVI 『Bon Jovi』 Mercury(1984)

BON JOVI 『7800° Fahrenheit』 Mercury(1985)

具体的には、①構成が全曲ほぼ一緒(1番、2番、ギターソロ、サビ戻り)、②特別なエンディングがない(半分がフェイドアウト、他も少し遅くしただけや、コード投げっぱなし)、③似たテンポが多い、④転調は“Livin’ On A Prayer”1曲のみ。拍子が変わるのは“禁じられた愛(You Give Love A Bad Name)”と“Livin’ On A Prayer”、⑤サビに合唱パートがある、もしくはサビに派手なコーラスがついている。というところでしょうか。

ひたすら〈同じことを繰り返す〉に特化しており、曲中でアレンジを変化させることによる刺激がほとんどないと言っていいでしょう。ゆえに、アルバム全体が似たような曲が多いという印象になります。

歩けるテンポ(BPM=110~125)が中心ですが、たまに早歩き(BPM=136 “Raise Your Hands”)、速くてもランニングぐらい(BPM=166 “Wild In The Streets”)と、徹底して身体が同期できるテンポから離れません。

ちなみに、同じ1986年の作品としてメタリカ『Master Of Puppets』がありますが、これは速すぎて歩けないし、めっちゃ変化するし、刺激しかない(笑)。同期できないテンポは円になって走り回るのがメタラー(笑)。

ボン・ジョヴィは全部がしっかりグリッドを感じさせる8ビートなので、一緒に体を動かしやすい。

 

キース・ジャレットだと、フィジカルなテンポの曲でもグリッドははっきりせず、ホリゾンタルに演奏が進みます。トリオだと3人分のその動きが絡み合い、毎瞬間生き物のように変化しているので、その変化をキャッチするために、耳の穴をかっぽじって必死でついていくことしかできません。体を動かす暇がない。

そして、どこまでテーマで、どこからソロなのかも、わからない。

例として、この曲を聴いて下さい。シームレスに音楽が進行していき、呪術的とすら感じる素晴らしい演奏です。

次に挙げる曲は、1曲の中でシーンがどんどん変化していき、緩急も変わる。精神的にどこか別の場所に連れていってくれるエネルギーがあるので、ひたすらフィジカルなボン・ジョヴィと対照的だと思います。

 

ボン・ジョヴィに戻ります。

ボン・ジョヴィの〈ひたすら同じことを繰り返す〉について、こう書くとネガティブに聞こえるかもしれませんが、アリーナロックとしては大正解。だって細かいところを仕込んだら、体を動かせなくなるんですよ(そもそもアリーナだと細かい仕掛けも聞こえない)。

前2作と聴き比べると、ギターリフやベースラインのバリエーション、リズムの仕掛けは、圧倒的に前2作の方が豊かで面白いです(書くこともいっぱいあります)。

ボン・ジョヴィは、楽曲内での変化による刺激よりも、パワーが持続し、かつ観客も運動として同期できる方を選んだ。ティーンエイジャーと本人たちが選んだ結果、このアルバムになったんですね。

しかし、徹底的なマーケティングでアーティスト性が消えるかというと、そういうことではないと思います。そこから残ったものが、アーティストの一番本質であり、一番捨てたくない部分かもしれないなと。

それは、〈観客と共に歩むことを決めた〉ということではないでしょうか。

私は普段ジャズという音楽をしていますが、自立したミュージシャン同士でその場でアンサンブルをするという、ミュージシャンの自主性とその時々の判断がかなり重んじられる音楽をしています。

ともすると、お客さんは置いてきぼりになる時もある。

〈ジャズって難しい〉と思われるのがこの部分で、常に変化しているし、常にミュージシャンは向上しているから、お客さんは置いてきぼりにもなりますよ。

演奏を本気で理解しようと思うと、歴史と技術の勉強が必要になるので、初めてジャズを聴く方がキース・ジャレットを聴いても良いと思うかどうか、わかりません(おそらく30人に1人は、強烈な情熱とカリスマ性にやられて、何もわからないのにどハマりすると思います。それがキースのカリスマ性)。

楽器を演奏している人は、多かれ少なかれエゴイスティックな部分があります。もっと技術的に上手くなりたいし、自分の表現を人に理解してほしいし、共感してほしい。皆が思う欲望です。

ボン・ジョヴィの〈観客と共に歩むことを決めた〉というのは、単純なセルアウトではなくて、自分たちの欲望を客観視し少し脇に置いておいて、観客の選んだ曲を大事に育てていくことを選んだということなのかもと、このアルバムの世界的ヒットで、その覚悟と確信を得たのではないかと思います。

最近のボン・ジョヴィは、慈善活動も話題になります。このような行動も、〈皆と共に歩むことを決めた〉結果の一つの選択なのではと思うんですよね。

 

この夏40周年の『ワイルド・イン・ザ・ストリーツ』、ぜひ前2作とも聴き比べて、観客の選んだ曲を大事に育てていくボン・ジョヴィの姿勢を感じて頂けたらと思います。

まだまだ暑い日が続きますので、くれぐれも熱中症などにお気をつけ下さい。

たまに“Livin’ On A Prayer”で踊ってみるのもいいかもですよ!(私はYouTubeを見ながら家で踊りましたが、わりと簡単な振り付けで楽しかったです)

 


LIVE INFORMATION
2026年8月16日(日)東京・小岩 COCHI
開演:20:00 ※2セット
出演:西山瞳(ピアノ)、橋爪亮督(テナーサックス)
ミュージックチャージ:3,000円
ご予約:COCHI オフィシャルサイト http://www.jazz-cochi.com//TEL 03-3671-1288

2026年8月29日(土)神奈川・横浜 上町63
開演:15:00 ※2セット
出演:西山瞳(ピアノ)、小牧良平(ベース)
ミュージックチャージ:3,300円 ※学割あり
ご予約:メール kanmachimusic@gmail.com/TEL 045-662-7322
上町63 オフィシャルサイト:http://jmsu.web.fc2.com/63/

2026年9月12日(土)神奈川・横浜 上町63
開演:15:00 ※2セット
出演:西山瞳(ピアノ)、市野元彦(ギター)
ミュージックチャージ:3,300円 ※学割あり
ご予約:メール kanmachimusic@gmail.com/TEL 045-662-7322
上町63 オフィシャルサイト:http://jmsu.web.fc2.com/63/

CD発売ライブ
2026年9月14日(月)東京・池袋 Apple Jump
開場/開演:19:00、19:30-2sets
出演:西山瞳トリオ 西山瞳(ピアノ)、西嶋徹(ベース)、則武諒(ドラムス)
ミュージックチャージ:3,500円
ご予約:Apple Jump オフィシャルサイト https://applejump.net//TEL 03-5950-0689

2026年9月16日(水)東京・大塚 GRECO
開場/開演:18:30/19:30 ※2セット
出演:坂上領(フルート)、西山瞳(ピアノ)
ミュージックチャージ:4,000円(季節の一品付)+2オーダー
ご予約:GRECO オフィシャルサイト https://www.greco.gr.jp//TEL 03-3916-9551

HITOMI NISHIYAMA -20th Anniversary- CONCERT
2026年9月19日(土)東京・渋谷 渋谷ホール&スタジオ
開場/開演/終演:18:30/19:00/20:30 ※90分、1ステージ
出演:西山瞳(ピアノ)
ご予約/当日:3,500円/4,000円 ※自由席
詳細ページ:http://blog.livedoor.jp/hitomipf79/archives/52597584.html

 

RELEASE INFORMATION
西山瞳率いるメタルカバープロジェクトNHORHMの1stと2ndアルバムがリマスタリング&紙ジャケ仕様にてリリース!!

NHORHM 『New Heritage Of Real Heavy Metal』 APOLLO SOUNDS(2024)

リリース日:2024年12月4日(水)
品番:APLS1510R
価格:2,750円(税込)

TRACKLIST(曲名 / オリジナルアーティスト)
1. In the Dead of Night / U.K.
2. Walk / Pantera
3. Man On the Silver Mountain / Rainbow
4. Skin Oʼ My Teeth / Megadeth
5. Fear of the Dark / Iron Maden
6. Upper Levels / ANGRA
7. 悪夢の輪舞曲 / BABYMETAL
8. Demonʼs Eye / Deep Purple
9. The Halfway to Babylon / 西山瞳
10. Green-Tinted Sixties Mind / Mr. Big

■メンバー
西山瞳 piano
織原良次 fretless bass
橋本学 drums

■ゲストミュージシャン
小田朋美 vocal track 4
馬場孝喜 a. guitar track 5
市原ひかり trumpet track 8
橋爪亮督 sax track 10

 

NHORHM 『New Heritage Of Real Heavy Metal II』 APOLLO SOUNDS(2024)

リリース日:2024年12月4日(水)
品番:APLS1612R
価格:2,750円(税込)

TRACKLIST(曲名 / オリジナルアーティスト)
1. Kings Of Metal / Manowar
2. Speed / Loudness
3. All Over The Nations / Helloween
4. Decadence Dance / Extreme
5. Beyond The Realms Of Death / Judas Priest
6. Iron Man / Black Sabbath
7. Mystery Of Babylon / 西山瞳
8. Over The Hills And Far Away / Gary Moore
9. The Gift Of Music / Dream Theater
10. THE ONE -Live Version- / BABYMETAL (Bonus Track)

■メンバー
西山瞳 piano
織原良次 fretless bass
橋本学 drums

■ゲストミュージシャン
田中充 trumpet track 4
宮崎隆睦 a. sax  track 4
橋爪亮督 t. sax track 4
池田雅明 trombone track 4

冠徹弥(from THE 冠)vocal   track 4

 

西山瞳 『Layer』 MEANTONE(2026)

リリース日:2026年9月9日(水)
品番:MT-16
価格:3,520円(税込)

TRACKLIST(全曲 西山瞳作編曲、8のみ梶純編曲)
1. Tidal タイダル
2. Black Water ブラック・ウォーター
3. Arrakis アラキス
4. Ebonies エボニーズ
5. Relief #1 レリーフ1
6. Layer レイヤー
7. Dot ドット
8. Bye Bye Blue Fish バイ・バイ・ブルー・フィッシュ

■メンバー
西山瞳 ピアノ、作曲 Hitomi Nishiyama piano,compose
西嶋徹 ベース Toru Nishijima bass
則武諒 ドラムス Ryo Noritake drums
鈴木孝紀 クラリネット Takanori Suzuki clarinet
橋爪亮督 テナー・サクソフォン、フルート Ryosuke Hashizume tenor saxophone, flute
maiko ヴァイオリン maiko violin

2025年11月15日 渋谷 公園通りクラシックスにてライブ録音

録音、ミックス、マスタリング:松下真也(Piccolo Audio Works)
ライナーノーツ:和田信一郎(s.h.i.)

 


PROFILE: 西山 瞳 

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシックピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I’m Missing You』を発表。ヨーロッパジャズファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、〈横濱JAZZ PROMENADE ジャズ・コンペティション〉において自身のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年に日本人リーダーとして初めて〈ストックホルム・ジャズ・フェスティバル〉に招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。以降、2作のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自身のバンドで録音したアルバム『Parallax』がスイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、〈インターナショナル・ソングライティング・コンペティション〉(アメリカ)で全世界約15,000のエントリーのなかから自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門の3位を受賞、コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表の『Music In You』はタワーレコードのジャズ総合チャートで1位、HMVの総合2位にランクイン、CDジャーナル誌の2011年ベストディスクに選出されるなど〈芸術作品として重厚な力作である〉と高い評価を得る。2014年に自身のレギュラートリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義の2作目『Shift』を発表。同作の好評を受け、アナログでもリリースする。2015年にヘヴィメタルの名曲をカバーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、ヤング・ギター誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズの両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得、ジャンルを超えたベストセラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には『extra edition』(2019年)もリリース。自身のプロジェクトのほかに東かおる(ボーカル)とのボーカルプロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグバンドへの作品提供などで幅広く活動。〈横濱JAZZ PROMENADE〉をはじめ全国のジャズフェスティバルやイベント、ライブハウスなどで演奏。オリジナル曲は高い作曲能力による緻密な構成とポップさが共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。