〈僕らはディストリクツ。ペンシルヴァニア州のリティッツという小さな町からやって来た。僕らは誠実な音楽を作る。そうすることに夢中なんだ〉――彼らの公式ウェブサイトを訪れた人は、こんなイントロダクションに出くわす。控えめで朴訥とした言葉は、現在は最寄りの大都市フィラデルフィアを拠点とするこの4人組の生真面目なスタンスを伝えているが、ディストリクツは、これだけではとても語り尽くせない実に興味深いバンドだ。まず何たって若い。同じ高校に通っていたロブ・グローテとコナー・ジェイコブスを中心に結成され、メンバーはまだ19~20歳ながら活動歴は5年。すでに見事な演奏力とケミストリーとオリジナリティーを確立している。
「リティッツには農場も多いし、自然豊かな場所で、のんびりした環境で育ったことが、僕らにいろいろな影響を及ぼしていると思う。そして、大都市と違ってカルチャーが足りないからこそ、自分たちのやり方で独自のアイデンティティーを築けたんじゃないかな。流行とは関係なく僕らがカッコイイと思う音楽、おもしろいと思う音楽だけを聴いてきたしね」(ロブ:以下同)。
古典ロックをカヴァーして修業を積んだのち、オリジナル曲を書いてライヴ活動を始めた彼らは、2012年に自主制作でファースト・アルバム『Telephone』を発表。昨年の〈SXSW〉で話題をさらい、2015年最大のルーキーの一組として脚光を浴びるなか、ファット・ポッサムからセカンド・アルバム『A Flourish And A Spoil』を送り出す。プロデューサーに指名されたのは、4人も惚れ込んでいたセイント・ヴィンセントの最新作『St. Vincent』が記憶に新しいジョン・コングルトンだ。
「ジョンのおかげで曲を客観的に捉え、細かい問題に気を揉まずに作業を進めることができたよ。僕らのめざすアルバムが完成するよう、手助けをしてくれたんだ。特に音質面での貢献は大きいね。僕らは注目を浴びていただけに、実力を証明しなくちゃという意識があったけど、〈これはセカンド・アルバムなんだ〉と自分たちに言い聞かせることでプレッシャーを遮断できたし、いまの瞬間を可能な限りオーセンティックに映した作品になったと思う」。
そう、本作に収められているのは、まさにいまでなければ書けなかった曲だ。曲作りを主導するロブは、故郷を離れてバンド活動に専念しはじめた自身の体験を重ね、未来に抱く不安感や成長に伴う痛みをポエティックに描写。レナード・コーエンやトム・ウェイツを愛し、「音楽に乗せる前にまずは詩を書くつもりで作詞に臨んでいる」と話すだけに、詩人のハートとイイ塩梅に枯れた歌声を備える素晴らしい表現者だ。対照的な2語――〈Flourish(繁栄すること)〉と〈Spoil(蝕み壊すこと)〉――を含むタイトルも、「アルバムに流れる〈変化〉や〈イノセンスの喪失〉といったテーマにインスパイアされた」と説明する。
「それってメランコリックであると同時に、僕には美しさも感じられるんだよね」。
詞にメランコリーと美しさが混在しているのだとしたら、4人が鳴らすサウンドも一筋縄ではいかない。ニール・ヤングからテレヴィジョン、レッド・ツェッペリンにクラッシュまで、前述した通り「流行とは関係なく僕らがカッコイイと思う音楽」を聴いてきた彼らは、アメリカーナとパンク/ガレージ・ロックを巧みな構成力を介して織り交ぜ、精緻にしてローファイ、インティメイトにしてダイナミック、自由奔放なのに秩序があり、掴みどころのない無二のバランス感を見せつける。
「昔から僕らの音には常にそういう趣があったんだけど、ここにきて理想的な形で作品に封じ込めることができた気がする」とロブ。やっぱりどこまでも言葉控えめなのがこのバンドのデフォルトのようだが、それが逆に器の大きさを物語っているのかもしれない。
ディストリクツ
ロブ・グローテ(ヴォーカル/ギター)、コナー・ジェイコブス(ベース)、ブレイデン・ローレンス(ドラムス)、パット・キャシディ(ギター)から成る4人組。高校在学中の2009年にフィラデルフィアで結成する。2012年にファースト・アルバム『Telephone』を配信限定でリリース。2014年1月にファット・ポッサムからファーストEP『The Districts』を発表。その後、〈SXSW〉〈レディング〉といった大型フェスに出演し、NME誌などにも大きく取り上げられるようになる。アークティック・モンキーズやベックのツアー・サポートを経て、セカンド・アルバム『A Flourish And A Spoil』をリリース。