過去の名曲に新しい命を吹き込むデュエット集
近年の音楽界ではデュエットやコラボが溢れかえっているが、その多くは共演ゆえの音楽的価値を引き出すよりも、ファン層を広げるためのマーケッティングありきの企画にしか思えないものだ。さらに、実は音のデータのやりとりだけで、当人たちが実際に会うことなく作られた「共演」も少なくない。
だが、ヴァン・モリソンの豪華な客演を迎えての新作『デュエッツ:リワーキング・ザ・カタログ』はそんな安っぽいアルバムではない。副題「リワーキング・ザ・カタログ」に注目してほしい。つまり、本作は歌手ヴァンの多彩な顔ぶれとのデュエット集であることに加え、ソングライターとしてのヴァンの自作曲のカタログ(350曲ほどになるそう)から隠れた名曲に改めてスポットライトを当てようとする企画なのである。そして、ヴァンはメイヴィス・ステイプルズ、タジ・マハールからマイケル・ブーブレ、ジョス・ストーンまでの共演者と顔を突き合わせての録音を原則とした。どうしても都合がつかず、ダビングとなったのは、スティーヴ・ウィンウッドら数組だけのようだ。
「孤高のアイリッシュ・ソウルマン」とも呼ばれ、頑固オヤジぶりでも名高いヴァンだが、我が道を行くイメージよりは多くのデュエットを過去にも残している。ただし、その大半はジョン・リー・フッカーやレイ・チャールズといった音楽を学んだ師匠たちだったので、音楽的には想定内だった。それに対し、今回は同世代とそれよりも若い人たちとの共演なので、味わい深い歌声の共演に加え、幾つかの驚きもある。
例えば、ヴァンが共演を望んだ筆頭だったソウル界の大物ボビー・ウーマックとの共演は、14年没の彼の生前最後の録音のひとつだが、70年代のボビーの作品を思わせるストリングス入りのノーザン・シティ・ソウルとなっている。ヴァンの音楽は主に50~60年代のブルーズとR&Bからの影響を基にしており、こういった70年代のニュー・ソウル以降のサウンドでヴァンの歌声を聴くことは珍しい。
また、ジョージ・ベンソンとの《ハイアー・ザン・ザ・ワールド》は彼のバンドとの録音で、スムース・ジャズ的サウンドでヴァンの歌唱を聞けるのも新鮮だ。
本作では、ヴァンの幅広い音楽性のうち、ブルーズ、R&B/ソウル、ジャズが中心になっており、フォーキーな曲はマーク・ノップラーの《アイリッシュ・ハートビート》など数曲だが、シンプリー・レッドのミック・ハックネルが是非この曲と熱望したアイリッシュ色濃いアルバム『ヴィードン・フリース』からの《ストリート・オブ・アークロー》がアルバムに異なった雰囲気を持ち込み、ハイライトのひとつとなっている。