綺羅星の如きアーティストを輩出した華々しすぎるサクセス・ストーリー――話題を呼んだ映画のBlu-ray化をきっかけにわざわざ振り返ってみる、忘れられたアーティストと倉庫行きになった膨大な楽曲たちの物語

 デトロイトの片隅の一軒家から世界の音楽を塗り替えたモータウンは、ビートルズやローリング・ストーンズが憧れ、日本を含む世界の音楽に影響を与え続けている音楽レーベル。引退を表明した創設者のベリー・ゴーディが初めて語る創業一代記、最初で最後の密着ドキュメント。20世紀にもっとも影響力を持った独立レーベルの正史がここに誕生!――(以上、資料より)。

ベン・ターナー, ゲイブ・ターナー 『メイキング・オブ・モータウン』 インターフィルム(2021)

 このように説明不要なモータウンの創業60周年を記念して、2019年に公開されたドキュメンタリー作品「メイキング・オブ・モータウン(Hitsville: The Making Of Motown)」。翌年には日本でも劇場公開が実現し、大きな話題を呼んだのも記憶に新しい。そんな歴史的資料としても重要なヒット作が今回めでたくBlu-ray化されることになった。

 59年にベリー・ゴーディJrがタムラを立ち上げた時点からモータウンの歴史は始まり、この映画で触れられるところの〈黄金期〉と言った際に、多くの人が名前を思い浮かべるのはだいたいスモーキー・ロビンソンとミラクルズ、テンプテーションズ、ダイアナ・ロス&スプリームス、フォー・トップス、マーヴィン・ゲイ、スティーヴィー・ワンダー、ジャクソン5といったレジェンドたち。それに続くのがマーサ&ザ・ヴァンデラスやマーヴェレッツ、メアリー・ウェルズ、といったところになるだろうか。モータウンを離れてより大きな成功を収めた者といえばグラディス・ナイト&ザ・ピップスやアイズリー・ブラザーズ、スピナーズのような例もある。

 とはいえ、創業者のベリー・ゴーディJrとスモーキー・ロビンソンがどれだけイチャイチャ語ろうと、レジェンドやスーパースターを除くほとんどのアーティストは名前を挙げられることはないはずだ。品質管理会議に敗れてコンスタントなリリースができなかった者がいて、ヒットが持続せずアルバムを出せなかった者がいて、シングルすら出なかった者もいるだろう。もちろん単純にヒットしなくて埋もれてしまったものもそこに加わってくる。もちろん、たとえ人気アーティストであっても膨大な未発表曲が残されているということは、それだけクオリティ・コントロールが厳しかったことの証明でもある。どのフィールドにおいても同じことは言えるだろうが、モータウンの成功物語の影には、アーティストにしろ楽曲にしろさまざまなタイプの夥しい〈負け〉が累々と積み重なっているのだ。

 そして、システムの産物として膨大なアーカイヴが残されている点にこそ、モータウンが単なるヒットパレード的な側面に終わらず長年ソウル・ファンを惹き付けてやまない理由があるのは明らかだ(単純にソウル好きにとっては大物が揃っているからでもあるが)。定期的に発掘される編集盤など見ても、いまだに初出の音源が膨大にあることに驚かされる。今回は映画の取り扱い範疇であるLA移転前の60年代の音源を主なターゲットとして、日の目を見なかった楽曲やリアルタイムで報われることのなかったアーティストたちの作品をまとめて一気に紹介してみよう。

2002年公開作のBlu-ray「永遠のモータウン コレクターズ・エディション」(ポニーキャニオン)

 

2019年のサントラ『Hitsville: The Making Of Motown』(Motown/Capitol)