A FUTURE WITH A PAST
幸福の絶頂から思わぬ失意の日々まで、否応ない経験を踏みしめてシアラが帰ってきた。母親の名を冠して決然とした強い思いを綴る『Jackie』は、自分らしいスタイルの追求と守るべきものへの愛を同時に表現した力作となっている。未来は自分で切り拓くわよ!!

CIARA Jackie Epic/ソニー(2015)

 妊娠中から曲作りを始めていたということは、もともとはフューチャーとの婚約~出産~結婚という流れを祝うハッピーな作品を念頭に置いていたのだろうか。が、うまくはいかないもので、描いていた幸せな未来は彼の浮気によって色合いを一変させ、カムバックの持つ意味合いも大きく変えてしまった。そんなわけで、想像し難い辛苦を超えて登場したシアラの通算6作目である。〈プリンセス・オブ・クランク&B〉を謳ったデビューから10年以上を迎え、紆余曲折や浮き沈みはありつつ大きくスタンス変更を迫られることなくメジャーの舞台で活動を続けてきた彼女も、今年で30歳。LA・リードの導きで復権した前作『Ciara』(2013年)がフューチャーと出会うきっかけだったことを思えば皮肉な話ではあるものの、そこでの音楽的な好調は2年を経ても素晴らしく保たれている。

 男の裏切りに投げかけるリリックのキツさも話題となった先行シングル“I Bet”は、初の手合わせとなるハーモニー・サミュエルズのプロデュース。彼を筆頭に制作陣は様変わりしているが、細かい転調と複雑なリズムの絡みから心地良いヴォーカル・フロウを生み出すシアラらしさは健在で、憧れのジャネット・ジャクソンの域にもいよいよ近づいてきた印象だ。同じくハーモニーの手掛けたオープニングの“Jackie(B.M.F.)”から、彼女自身のチンピラなラップとアーメン・ブレイクの応酬によってドープな世界へググッと引き込み、ダンスでも魅せるシアラならではのトラックが続いていく。〈らしさ〉の点では、ミッシー・エリオット&ピットブルを招いた“That's How I'm Feelin'”もEDMのテンプレ的な展開に思わせておいてエレクトロ(・ヒップホップ)~ベースを貫くダンス・チューンで、これは馴染みのポロウ・ダ・ドンのプロデュース。彼はアフリカ・バンバータ“Planet Rock”ネタの“Fly”でもEDM以降のブーティー・エレクトロを響かせていて、これはアトランタ産ならではの好ましさと言い換えてもいいだろう。そんなノリに感化されたのか、Drルーク&サーキットも“Lullaby”をアトランタ・ベース調に仕立てているのがおもしろい。

 後半では直線的に張り上げるトランシーな“Give Me Love”や“One Woman Army”でダンス・ポップのスタンダードに対応。愛息への眼差しのように優しいダイアン・ウォーレン作のバラード“I Got You”で結ぶ作りは、いまの彼女が抱く強い決意を映し出したものに違いない。良くも悪くも背負い込んだドラマを見事に作品へと昇華した、またしても大満足の傑作。