(C)Adriano Heitmann

 

若手のソリストと一流アーティストの共演が楽しめる“アルゲリッチ・プロジェクト”2014年ライヴ盤

 1960年代に圧倒的な技巧と豊かな感情表現、そして魅惑的な黒髪と美貌で一気にスターダムに駆け上がったアルゲリッチ。彼女は80年代になると独奏よりも合奏を好むようになり、90年代後半からは毎年、世界各地の音楽祭で室内楽演奏を行っている。2002年からルガーノで開催している 「アルゲリッチ・プロジェクト」もその一つで、この3枚組には2014年の演奏会の模様を収録している。

MARTHA ARGERICH Live From Lugano 2014 Warner Classics(2015)

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 冒頭はアルゲリッチがソロを務めたモーツァルトのピアノ協奏曲第20番。ニ短調の悲劇的な曲想自体、彼女にぴったりであり、この作品に内在するドラマを表情豊かに再現してゆく。続くロシアのチェロ奏者マイスキーとのベートーヴェン《魔笛変奏曲》は、ヴェテラン同士によるリラックスした語らいのように響く。こうしたことは過去の巨匠たちの音源でも感じられるが、彼女たちが違うのは若き日の敏捷性や鋭いセンスを失っていないこと。これはアルバムの最後に収録された巨匠クレーメルとのヴァインベルク《ヴァイオリン・ソナタ第5番》でも実感される。スケルツォ楽章での皮肉なリズムと鋭い音色の交錯など、両者の類まれな芸術性を証明している。フランスの女性奏者クロッツと組んだプーランク《4手のためのピアノ・ソナタ》では、ひねくれたメロディや楽曲展開を敏感なリズムと鮮やかなタッチで生き生きと描いている。

 アルゲリッチが参加していない作品では、ヴァイオリンのシュヴァルツベルク、チェロのドゥロビンスキーなど老練の奏者5人によるミヨーの《世界の創造》が先ず見事。作品のジャズ風なフィーリングが絶妙に活かされ、奏者が互いに反応しあう合奏の妙味も目に見えるようだ。ヴァイオリンのバラノフ、チェロの趙静らが参加したボロディンのピアノ五重奏曲では、弦楽器4人の濃厚な情緒、甘美な節回し、張りのある合奏を、大ヴェテランのモギレフスキーが詩情豊かなピアノでまとめ上げてゆく練達の手腕に唸らされる。

【参考動画】マルタ・アルゲリッチによるチャイコフスキー〈ピアノ協奏曲第1番〉