ゆかいなゆかいな美術鑑賞入門

 世界の有名な美術作品を歌とアニメで紹介する番組「びじゅチューン!」。風神雷神図屏風、モナ・リザ、ツタンカーメンの黄金マスクや鳥獣人物戯画などの誰もが知っている美術作品を、映像作家・井上涼のナビゲートで紹介。井上涼は、作詞、作曲、うた、アニメーションすべてを担当している。

井上涼 びじゅチューン! DVD BOOK 小学館(2015)

 DVDと本が一緒になっており、DVDには人気の16作品と解説が収録。本では、番組では見られなかった各作品の構想スケッチなどの制作過程や、題材となったオリジナル作品の解説を紹介。美術作品にちなんだ登場人物がいたり、別の作品のキャラクターがじつはここにも、といった見どころなど、美術作品にも井上涼にも興味の湧く、楽しくてわかりやすいポップな内容。映像と本を合わせて見られることで、さりげない面白さにも時間をかけて仕上げられた大作であることがわかる。

 音楽も独特で、耳から離れない曲と絶妙な歌詞。例えば、ボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」を基にした《委員長はヴィーナス》は昭和歌謡風、江戸時代の名作「見返り美人図」を基にした《見返りすぎてほぼドリル》は太鼓や鉦を使って江戸の人情コメディのような仕上がり。ヘタウマな(褒め言葉です)うたを引き立たせるア・カペラ・コーラスグループのジョリー・ラジャーズの渋いコーラスは、ラップにも対応。なんともいえないバランスで、ニヤリとしながら歌詞を追ってしまう。

 偉大な美術作品には敬わなければならないムードがあって苦手だったという井上涼が、敷居の高い世界的な作品を独自の発想でさらりと教えてくれる。さらり、の中の労力は計り知れないけど、“びじゅつと友だちになる”という愛あるシンプルな願いが伝わってくる。少なくとも、こんなに愉快な美術鑑賞入門書を他に知らない。